MO:アルトリアの配当推移
アルトリアグループ(MO)配当利回りと株価分析
2024年通期業績、2025年第3四半期決算、最新の2025年通期EPSガイダンス($5.37〜$5.45)、自社株買いプログラム(上限$2.0B)と、2025年時点の配当実績を反映しました。[1][2][3]
アルトリアグループ(Altria Group, Inc.)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。
権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。
配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート
年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等
年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。
| 年 | 配当 | 平均株価 | 年EPS | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 平均利回り | 成長率 | 配当性向 | 年計 | |||
| 2024 | 8.17% | 6.7% | 62% | 4.08 | 49.9 | 5.12 |
| 2023 | 8.69% | 4% | 84% | 3.84 | 44.2 | 4.57 |
| 2022 | 7.68% | 5% | 115% | 3.68 | 47.9 | 3.19 |
| 2021 | 7.49% | 4% | 263% | 3.52 | 47.0 | 1.34 |
| 2020 | 8.23% | 4% | 142% | 3.40 | 41.3 | 2.40 |
| 2019 | 6.68% | 9% | -469% | 3.28 | 49.1 | -0.70 |
| 2018 | 4.98% | 18% | 82% | 3.00 | 60.2 | 3.68 |
| 2017 | 3.64% | 8% | 48% | 2.54 | 69.8 | 5.31 |
| 2016 | 3.68% | 8% | 32% | 2.35 | 63.9 | 7.28 |
| 2015 | 4.03% | 9% | 81% | 2.17 | 53.9 | 2.67 |
| 2014 | 4.75% | 9% | 78% | 2.00 | 42.1 | 2.56 |
| 2013 | 5.18% | 8% | 81% | 1.84 | 35.5 | 2.26 |
| 2012 | 5.26% | 8% | 83% | 1.70 | 32.3 | 2.06 |
| 2011 | 5.96% | 8% | 96% | 1.58 | 26.5 | 1.64 |
| 2010 | 6.61% | 11% | 78% | 1.46 | 22.1 | 1.87 |
| 2009 | 7.59% | -21% | 86% | 1.32 | 17.4 | 1.54 |
| 2008 | 8.20% | -45% | 71% | 1.68 | 20.5 | 2.36 |
2024年の配当実績と2025年見通し
安定した配当成長の実績
Altria Group(MO)の配当実績は、たばこ産業特有の規制環境や社会的圧力にもかかわらず、安定した成長を続けています。2008年の1株当たり$1.68から2024年には$4.08へと、約16年でおよそ2.4倍に拡大しました。[1] 複数の景気サイクル、規制強化、喫煙率の低下といった逆風にもかかわらず、増配トレンドを維持してきた点が特徴です。
配当成長率の推移
MOの配当成長率は比較的安定しています:
- 2008〜2009年:世界金融危機の影響により減配(-45%、-21%)
- 2010〜2015年:回復期に安定した成長(8〜11%)
- 2016〜2017年:安定した8%の成長
- 2018年:成長率の加速(18%)
- 2019〜2023年:より控えめで安定した成長(4〜9%)
- 2024年:6.7%増配と再び中程度の成長率
このパターンは、初期の経済危機からの回復と、その後の成熟企業としての安定した配当政策への移行を反映しています。2010年以降は一度も配当を削減していない点も重要です。[1]
配当性向の持続可能性
2024年の改善:配当性向は62%まで改善し、2023年の84%から大幅に健全化しました。これは調整後EPSが$4.57から$5.12へと増加したことによるものです。[2]
配当性向(「1株配当 ÷ EPS」)は、MOにとって重要な指標ですが、その値は年によって大きく変動しています:
- 2008〜2015年:71〜96%の範囲で比較的高水準だが安定
- 2016〜2017年:例外的に低い水準(32%、48%)を記録
- 2018年:82%と典型的な高水準に戻る
- 2019年:EPSがマイナスとなり、計算上は-469%
- 2020〜2023年:142%、263%、115%、84%と変動の大きい期間
- 2024年:62%と、近年では比較的落ち着いた水準
財務パフォーマンスと成長見通し
2024年業績ハイライト
- 売上高:$20.44B(前年比-0.3%)
- 調整後EPS:$5.12(前年比+3.4%)[2]
- 営業CFマージン:43%(前年45%から微減)
- 配当支払い:$6.8B(年間総額)
- 自社株買い:$3.4B(約7,350万株を回収)
2025年ガイダンスと足元の進捗
2025年業績見通し(Q3決算時点):[3]
- 調整後EPSガイダンス:$5.37〜$5.45(2024年比でおおむね+約5〜6%の成長レンジ)
- 自社株買いプログラム:上限$2.0Bまで拡大(2026年末までの完了を目標)
- 実効税率:23%〜24%を想定
2025年第3四半期の調整後EPSは$1.45で、市場コンセンサス(約$1.44)をわずかに上回りました。[3]
同時に、通期の調整後EPSガイダンスの下限を引き上げ、減少する紙巻きたばこ数量を価格政策とコスト管理で吸収する姿勢を再確認しています。
セグメント別業績(2024年)
| セグメント | 売上高 (B$) |
前年比 | 調整後OCI (B$) |
OCIマージン |
|---|---|---|---|---|
| 喫煙可能製品 | 17.74 | -0.8% | 10.92 | 61.6% |
| 経口たばこ製品 | 2.67 | +4.5% | 1.81 | 67.8% |
| その他 | 0.04 | -36.7% | -0.41 | N/A |
強力なキャッシュフロー基盤
2024年の株主還元:配当$6.8Bと自社株買い$3.4Bを合わせて、総額$10.2Bを株主に還元しました。これは営業キャッシュフロー$8.75Bを上回る水準で、一時的なIQOS権利売却益や既存の現金ポジションを活用した積極的な還元と言えます。[2]
MOの最大の強みは、極めて堅固なキャッシュフロー生成能力にあります。たばこ産業の特性として、ブランド力に基づく価格設定力と低い設備投資要件により、高いキャッシュフローマージンを実現しています。[4]
重要な事業変化と戦略
IQOS商業化権利の売却
2024年の重要な取引:アルトリアは、加熱式たばこ「IQOS」の米国における商業化権利をPhilip Morris International(PMI)に売却し、約$2.7Bの税引き前利益を計上しました。これは2024年のEPSを押し上げる一時要因となっています。[2]
NJOY事業の進展
- NJOY消耗品の出荷量:2024年Q4に前年比15.3%増の約1,280万個
- NJOYデバイスの出荷量:2024年Q4に前年比22.2%増の約110万個
- 米国市場シェア:NJOY消耗品で約6%強と、規制適合型電子タバコの中で存在感を高めつつある水準
長期キャッシュフロー分析と配当カバー率
営業キャッシュフローと配当支払いの推移(17年間)
| 年度 | 営業CF (M$) |
CF成長率 (%) |
配当支払 (M$) |
配当カバー率 (倍) |
FCF (M$) |
株主還元 (M$) |
還元率 (%) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2024 | 8,753 | -6 | 6,800 | 1.29 | 8,578 | 10,200 | 119 |
| 2023 | 9,287 | 12 | 6,553 | 1.42 | 9,004 | 8,374 | 93 |
| 2022 | 8,256 | -2 | 6,297 | 1.31 | 8,074 | 9,541 | 118 |
| 2021 | 8,405 | 0 | 6,105 | 1.38 | 8,193 | 10,029 | 122 |
| 2020 | 8,385 | 7 | 5,734 | 1.46 | 8,242 | 5,396 | 65 |
| 2019 | 7,837 | -7 | 5,598 | 1.40 | 7,694 | 4,712 | 61 |
| 2018 | 8,391 | 71 | 5,115 | 1.64 | 8,214 | -4,716 | -57 |
| 2017 | 4,901 | 28 | 4,678 | 1.05 | 4,434 | 7,771 | 175 |
| 2016 | 3,826 | -35 | 4,332 | 0.88 | 3,649 | 5,329 | 146 |
| 2015 | 5,843 | 25 | 4,253 | 1.37 | 5,828 | 6,780 | 116 |
| 2014 | 4,663 | 7 | 3,920 | 1.19 | 4,486 | 4,694 | 105 |
| 2013 | 4,375 | 13 | 3,610 | 1.21 | 4,177 | 4,702 | 113 |
| 2012 | 3,885 | 8 | 3,345 | 1.16 | 3,805 | 5,175 | 136 |
| 2011 | 3,581 | 29 | 3,109 | 1.15 | 3,194 | 3,012 | 94 |
| 2010 | 2,767 | -20 | 2,873 | 0.96 | 2,508 | 2,583 | 103 |
| 2009 | 3,443 | -29 | 2,595 | 1.33 | 3,678 | -276 | -8 |
| 2008 | 4,881 | -53 | 3,306 | 1.48 | 5,360 | 2,585 | 48 |
配当カバー率の安定性分析
- 17年平均カバー率:約1.3倍(配当は営業CFのおよそ75〜80%でカバー)
- 危険水準(1.0倍未満):2010年(0.96倍)、2016年(0.88倍)の2回のみ
- 2018年以降:一時的な投資・売却を除けば、おおむね1.3倍前後を維持
- フリーキャッシュフロー:2024年は約$8.6Bと潤沢
キャッシュフロー構造の特徴
「営業CF > 配当支払い」の安定性:過去17年間で営業CFが配当支払いを下回ったのは2010年と2016年の2回のみです。特に2018年以降は、営業CFが年間$8B台の高水準で安定し、配当カバー率も1倍を大きく上回る水準を維持しています。[4]
2024年の積極的株主還元:配当$68億に加えて自社株買い$34億を実施し、総還元額$102億は営業CF$87.5億を上回りました。一時的な資産売却益や過去の内部留保を活用した「株主還元の前倒し」と捉えることができます。[2]
バランスシート分析と財務健全性
資本構成と負債水準の推移(17年間)
| 年度 | 総資産 (B$) |
総負債 (B$) |
株主資本 (B$) |
自己資本率 (%) |
純負債 (B$) |
D/E比率 | 債務/EBITDA |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2024 | 35.2 | 37.4 | -2.2 | -6 | 21.8 | N/A | 2.1 |
| 2023 | 38.6 | 42.1 | -3.5 | -9 | 22.5 | N/A | 2.2 |
| 2022 | 37.0 | 40.9 | -3.9 | -11 | 25.1 | N/A | 2.4 |
| 2021 | 39.5 | 41.1 | -1.6 | -4 | 26.3 | N/A | 2.7 |
| 2020 | 47.4 | 44.4 | 2.8 | 6 | 26.9 | 15.6 | 2.8 |
| 2019 | 49.3 | 42.9 | 6.2 | 13 | 25.4 | 6.9 | 2.6 |
| 2018 | 55.5 | 40.6 | 14.8 | 27 | 26.2 | 2.7 | 2.3 |
| 2017 | 43.2 | 27.8 | 15.4 | 36 | 14.5 | 1.8 | 1.7 |
| 2016 | 45.9 | 33.1 | 12.8 | 28 | 16.8 | 2.6 | 2.1 |
| 2015 | 31.5 | 28.5 | 2.9 | 9 | 19.7 | 9.9 | 2.8 |
| 2014 | 34.5 | 31.4 | 3.0 | 9 | 21.9 | 10.4 | 3.2 |
| 2013 | 34.9 | 30.7 | 4.1 | 12 | 21.8 | 7.5 | 3.1 |
| 2012 | 35.3 | 32.1 | 3.2 | 9 | 23.1 | 10.1 | 3.4 |
| 2011 | 36.8 | 33.0 | 3.7 | 10 | 24.9 | 9.0 | 3.8 |
| 2010 | 37.4 | 32.2 | 5.2 | 14 | 25.8 | 6.2 | 4.1 |
| 2009 | 36.7 | 32.6 | 4.1 | 11 | 27.5 | 8.0 | 4.2 |
| 2008 | 27.2 | 24.4 | 2.8 | 10 | 21.8 | 8.6 | 3.9 |
バランスシート構造の特徴と注意点
- マイナス株主資本(2021年以降):積極的な自社株買いと高水準の配当還元によるもので、会計上の現象(債務返済能力とは別問題)
- 債務水準の管理:債務/EBITDA比率はおおむね2倍前後で推移し、社内目標レンジ内
- 流動性の確保:現金および現金同等物に加え、十分なコミットメントラインを保有
- 金利リスク:長期固定金利債務が中心で、急速な金利上昇局面でもキャッシュフローへの影響は相対的に限定的
財務レバレッジの戦略的活用
レバレッジド・リキャピタリゼーション戦略:2021年以降の株主資本のマイナス化は、同社が採用している「レバレッジド・リキャピタリゼーション」的な戦略の結果です。
- 高収益ビジネスの活用:安定した高収益事業からのCF創出力を背景に、負債を活用しながら株主還元を最大化
- 税務効率化:負債の利子控除効果により税負担を抑制
- 株主還元最大化:会計上の株主資本を超える還元を継続
- 資本効率向上:ROEは会計上解釈が難しくなるものの、「投入資本あたりのキャッシュ創出力」は高水準
信用格付けと財務制約
信用格付け(目安):
- S&P:BBB(アウトルック安定)
- Moody’s:Baa2(アウトルック安定)
- いずれも投資適格級を維持しつつ、高水準の株主還元とバランスシートの両立を図るポジション
負債構成と満期プロファイル
2024年時点の負債管理:総負債の大部分は長期固定金利債務で、短期債務は総負債の一部にとどまります。満期が分散されており、特定年度に償還が集中しない構造になっています。[4]
流動性管理:
- 現金および現金同等物:数十億ドル規模
- コミットメントライン:数十億ドル規模の未使用枠
- 短期債務に対する流動性カバー率:十分な水準を維持
ミニ解説:MOは「高配当+キャッシュフロー重視」の典型銘柄
アルトリアは、成長株というより「高配当と株主還元を重視するインカム株」と位置づけるのが自然です。紙巻きたばこの数量は構造的に減少している一方で、価格改定とコスト管理によりキャッシュフローは高水準を維持しており、その大部分を配当と自社株買いで株主に還元しています。
喫煙率の低下や規制強化などリスク要因は多いものの、「減少するパイをどこまで収穫し切れるか」という観点で、配当の持続可能性とキャッシュフローの安定性をチェックし続けることが重要です。
【注】(出典リンク)
-
配当情報・増配履歴 →
Altria「Dividend Information」 →
Altria 投資家向け情報トップ
(確認日:2025-11-26) ↩ -
2024年通期業績・IQOS権利売却・キャッシュフロー →
Altria Annual Report / Proxy →
Altria IR(ニュースリリース・決算資料)
(確認日:2025-11-26) ↩ -
2025年Q3決算・通期EPSガイダンス($5.37〜$5.45)・自社株買い$2.0B →
Altria IR(2025年決算リリース) →
Reuters「Altria Group Inc (MO.N) Company News」
(確認日:2025-11-26) ↩ -
長期キャッシュフロー・バランスシート推移 →
Altria Annual Report / 10-K →
Macrotrends「Altria Financial Statements」
(確認日:2025-11-26) ↩
