RTX(レイセオンテクノロジーズ) 配当推移・株主還元・成長性を分析:LMTとの違いは?

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【2025年版】RTX (レイセオン) 徹底分析:防衛と航空宇宙の巨人、その投資価値とは

【2025年版】RTX (レイセオン) 徹底分析:防衛と航空宇宙の巨人、その投資価値とは

はじめに
RTX Corporation(旧Raytheon Technologies)は、2020年の大型合併により誕生した、航空宇宙・防衛セクターの世界的リーダーです。[1] ミサイルやレーダーを手掛ける防衛事業の「Raytheon」と、航空機エンジンや電子機器を手掛ける商業航空宇宙事業の「Collins Aerospace」「Pratt & Whitney」という、性質の異なる二つの巨大な柱を持っています。
本記事では、このユニークな「二本柱」ビジネスモデルが、RTXにどのような強みと課題をもたらしているのかを分析します。地政学リスクの高まりを背景とした防衛事業の安定性と、世界的な航空需要の回復による商業部門の成長性、そして株主還元の要である配当の持続可能性について、最新の財務データに基づき徹底解説します。[2][3]
なお、本記事の数値やコメントは、原則として2024年通期決算および2025年第3四半期決算までの情報を反映しています(確認日:2025年12月11日)。

最重要ポイント:RTXの「二本柱」ビジネスモデル

RTXの投資価値を評価する上で、その事業構成の理解が不可欠です。

  1. 防衛事業 (Raytheon): ミサイル防衛システム、レーダー、サイバーセキュリティなど、国家安全保障に直結する製品・サービスを提供。収益は政府の防衛予算に依存するため安定的で、地政学的緊張が高まると需要が増加します。
  2. 商業航空宇宙事業 (Collins Aerospace, Pratt & Whitney): 航空機のエンジン、電子機器、内装などを製造。収益は航空機の生産数や世界の航空旅客数に連動するため景気循環の影響を受けやすいですが、長期的な成長ポテンシャルと巨大なアフターマーケット(保守・修理)事業を秘めています。

この二つの異なるサイクルを持つ事業の組み合わせが、景気変動に対する耐性を高め、事業全体の安定化に寄与しています。

【免責事項および出典について】

  • 本記事の財務データは、主にRTX Corp.がSEC(米国証券取引委員会)に提出した年次報告書(Form 10-K)や決算資料、同社IRサイトに基づいています。一部でMacroTrendsやYCharts等の金融データサイトも補助的に参照しています。[2][5]
  • 重要:2020年4月にUnited TechnologiesとRaytheon Companyが合併して現体制となりました。そのため、2020年以前のデータとの単純比較は困難な点にご留意ください。本記事では主に合併後のデータに基づいて分析を行います。[1]
  • 本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。投資の最終決定は、ご自身の判断と責任においてお願いします。

1. 株主還元:試練を乗り越え、増配軌道へ

RTXの配当の歴史は、同社の事業再編と外部環境の激変を反映しています。合併とパンデミックという試練を経て、株主還元は今、新たなステージに入っています。

1.1. 配当指標の推移(合併後)

2020年の合併後の配当実績を見ることで、新体制下での株主還元方針と、その持続可能性を評価します。

会計年度 年間配当
(1株あたり, $)
配当成長率
(前年比)
EPS ($)
(調整後)
配当性向
(調整後EPSベース)
2020 2.16 リセット 2.73 約79%
2021 2.01 -7.2% 4.27 約47%
2022 2.16 7.7% 4.78 約45%
2023 2.32 7.4% 5.06 約46%
2024 2.48 6.9% 5.73 約43%
2025 (E) 2.72 9.7% 6.10–6.20 約44%

出典: RTX Investor Relations(Dividends & Splits, 決算資料)、SEC Filings等。EPSは一時的要因を除いた調整後(Adjusted)EPSを使用。2025(E)の配当は2025年12月時点の四半期配当0.68ドルを年換算した概算値、EPSは会社の2025年ガイダンスレンジを記載。[2][3][4]

注意:配当性向の考え方について

RTXは現在、Pratt & Whitneyのエンジン問題に関連する多額の一時費用を計上しており、とくに2023年には粉末金属不具合に伴う約30億ドルの税引前費用を計上しました。[6] そのため、会計上の純利益(GAAP利益)で計算した配当性向は一時的に高く見えてしまい、実態を正確に反映しません。
ここでは、一時費用を除いた「調整後EPS」を基準に配当性向を算出しています。これにより、同社の本質的な収益力に対する配当の負担度をより正確に評価できます。2020年の合併直後を除けば、調整後ベースの配当性向は2021〜2024年でおおむね43〜47%、2025年ガイダンスベースでも約44%と、成熟ディフェンス銘柄としては非常に健全な水準にあります。[2][3]

1.2. フリーキャッシュフローで見る配当の安全性

配当の真の原資であるフリーキャッシュフロー(FCF)と配当支払総額を比較し、配当の安全性を検証します。

会計年度 営業CF
(百万$)
フリーCF
(百万$)
配当支払総額
(百万$)
FCF配当カバー率
(フリーCF / 配当総額)
2020 3,606 2,525 3,010 0.8倍
2021 7,071 5,014 3,071 1.6倍
2022 7,168 4,874 3,275 1.5倍
2023 7,883 5,496 3,472 1.6倍
2024 7,159 4,534 3,217 1.4倍

出典: RTX 2024 Form 10-Kおよび決算資料、SEC Filings、各種財務データサイト。フリーCF = 営業CF – 設備投資。配当支払総額とカバー率は筆者集計。[2][5]

  • CFの回復と直近のブレーキ: パンデミックで商業航空部門が打撃を受けた2020年はFCFが配当支払いを下回りましたが、2021年以降は急速に回復しました。2023年にはフリーCFが約55億ドルと配当総額の1.6倍まで改善し、2024年はPratt & Whitney関連の支出増などで約45億ドルへやや減少したものの、なお配当総額の約1.4倍を確保しています。
  • エンジン問題と今後のFCFガイダンス: Pratt & WhitneyのGTFエンジン問題への対応により、2025年までFCFが圧迫される見通しですが、会社は2025年通期でフリーCF70〜75億ドルを維持するガイダンスを示しています。[3] エンジン問題対応に伴う支出を織り込みつつも、事業全体としては依然として強いキャッシュ創出力を期待していることがわかります。

2. 業績分析:二本柱の回復力と課題

RTXの近年の業績は、合併とパンデミックという二つの大きな出来事の影響を強く受けてきましたが、2024年までに売上・利益ともに回復基調が鮮明になっています。[2]

会計年度 売上高(百万$) 純利益(GAAP, 百万$) 調整後 純利益(百万$) 受注残高(百万$)
2020 56,587 -3,519 4,297 150,400
2021 64,388 3,864 6,442 156,000
2022 67,074 5,197 7,106 175,000
2023 68,920 3,195 7,263 196,000
2024 80,738 4,774 7,705 218,000

出典: RTX Investor Relations, 2024 Form 10-K等。受注残高は各年末時点の会社公表値。[2]

  • 着実な回復と成長: 合併後の売上高は2020年の約566億ドルから2024年には約807億ドルまで増加しました。2024年は前年から約17%増収(オーガニック売上も11%増)となっており、防衛事業と商業航空宇宙事業の双方が伸びています。[2]
  • 堅調な受注残高: 将来の売上を示す受注残高は、2023年末に1,960億ドル、2024年末には2,180億ドルと過去最高を更新しました。さらに2025年Q3時点では2,510億ドルに達しており、複数年にわたる高い稼働率と売上成長を裏付けています。[2][3]
  • 利益の回復と一時費用: 調整後の純利益は2020年以降一貫して増加しており、2024年には約77億ドルと過去最高水準となりました。一方で、GAAPベースではPratt & WhitneyのGTFエンジン問題に関連する一時費用の影響を受け、2023年に純利益が落ち込んだ後、2024年に約48億ドルまで回復しています。[2][6]

なお、最新決算である2025年第3四半期(2025年10月発表)では、売上高が約225億ドル、調整後EPSが1.70ドルとなり、会社は2025年通期の調整後売上を865〜870億ドル、調整後EPSを6.10〜6.20ドル、フリーキャッシュフローを70〜75億ドルとする見通しを示しています。[3]

3. 投資判断のヒント:RTXの強みとリスク

RTXへの投資を検討する上で、その独自の強みと、現在直面している課題を理解することが不可欠です。

RTXの強み (事業の優位性)

  • 事業の多様性(景気耐性):防衛(不況に強い)と商業航空宇宙(好況に強い)という異なるサイクルを持つ事業を組み合わせることで、収益の安定性を高めています。
  • 高い技術力と市場地位:ミサイル、航空機エンジン、アビオニクスなど、多くの分野で世界トップクラスの技術と独占的な市場シェアを誇ります。
  • 巨大なアフターマーケット事業:一度販売した航空機エンジン等の保守・修理・部品交換(サービス)から、長期にわたり高収益な収入を得るビジネスモデルは、極めて強力な収益基盤です。
  • 堅固な受注残高:約2,000億ドル超の受注残高が、数年先までの収益の安定性を保証しています。

注意すべきリスク要因

  1. Pratt & Whitneyのエンジン問題:主力エンジン(GTF)の製造過程で使用された粉末金属の不具合により、2023年に約30億ドルの税引前費用を計上し、2023〜2025年にかけて数十億ドル規模の追加コストと航空会社への補償支払いが発生する見通しです。[6] これは短期的な収益とキャッシュフローの最大の圧迫要因ですが、それでもRTXは2025年のフリーキャッシュフローを70〜75億ドルと見込んでおり、全社としてのキャッシュ創出力は維持される前提になっています。[3]
  2. 商業航空宇宙の景気循環性:航空旅客需要は景気、パンデミック、地政学リスク、燃料価格などに大きく左右されます。
  3. 政府予算への依存:防衛部門は米国の防衛予算の動向に大きく影響されます。
  4. サプライチェーンと実行リスク:航空宇宙・防衛産業は複雑なサプライチェーンに依存しており、部品供給の遅延や、大規模プログラムのコスト超過などが常にリスクとして存在します。

4. まとめ

本記事では、RTXの財務データを多角的に分析しました。最後に、投資判断のためのポイントを整理します。

RTXは、防衛事業の安定性と商業航空宇宙事業の成長性を兼ね備えた、航空宇宙・防衛セクターのユニークな複合企業です。この二本柱のビジネスモデルは、長期的に安定したキャッシュフローを生み出す強力なエンジンであり、信頼性の高い株主還元の基盤となっています。

2024年通期時点で、売上は約807億ドル、調整後EPSは5.73ドル、フリーキャッシュフローは約45億ドル、受注残高は2,180億ドルという規模に達しており、配当はこうした本業の収益力とキャッシュフローによって十分にカバーされています。[2] さらに2025年Q3時点の受注残高は2,510億ドルまで積み上がっており、今後数年の成長余地も大きいと考えられます。[3]

一方で、投資家は現在同社が直面しているPratt & Whitneyのエンジン問題という大きな逆風を正しく評価する必要があります。この問題の財務的影響は2025年頃まで続くと見込まれ、短期的なFCFと利益率の重しであり続けます。ただし、会社はそれでも2025年に70〜75億ドルのフリーキャッシュフローと前年からのEPS成長を見込んでおり、問題は「重大だが致命的ではない」という前提に立っている点も重要です。[3][6]

最終的な投資判断は、RTXの持つ長期的な強みと成長ポテンシャルが、この短期〜中期的な課題を乗り越えるに値すると考えるかどうか――ご自身の投資時間軸とリスク許容度と照らし合わせて、慎重に評価することが重要です。

ミニ解説:配当指標とFCF配当カバー率の見方

本記事で用いている「配当性向」は、一時要因を除いた調整後EPSに対する年間配当の割合です。一般に、成熟企業では40〜50%程度の水準であれば、再投資と株主還元のバランスが取れた水準とみなされることが多くなります。
また「FCF配当カバー率」は、フリーキャッシュフロー(FCF)が配当支払総額の何倍あるかを示す指標で、1倍を大きく上回っていれば、設備投資や債務返済の余地を残しつつ配当を維持・増配しやすい状態と考えられます。RTXの場合、2024年時点でもFCFは配当の約1.4倍あり、エンジン問題による逆風を抱えつつも、配当余力は確保されていると読み取れます。

【注】(出典リンク)

  1. RTXの会社概要・合併経緯 → United Technologies and Raytheon Complete Merger of Equals Transaction(RTX公式ニュース, 2020-04-03)RTX Corporation – 企業概要(Wikipedia)(確認日:2025-12-11)
  2. 2024通期決算・2025年初期見通し → RTX Reports 2024 Results and Announces 2025 Outlook(RTX公式ニュース)RTX Corporation Form 10-K 2024(SEC EDGAR)(確認日:2025-12-11)
  3. 2025年Q3決算・通期見通し更新 → RTX Reports Q3 2025 Results(RTX公式ニュース)Reuters – RTX raises 2025 forecast(2025-10-21)(確認日:2025-12-11)
  4. 配当実績・配当水準 → RTX Investor Relations – Dividends & SplitsYCharts – RTX Dividend History(確認日:2025-12-11)
  5. キャッシュフロー・売上高・利益の長期推移 → RTX 2024通期決算資料(RTX公式ニュース)Stock Analysis – RTX Cash Flow Statement(確認日:2025-12-11)
  6. Pratt & Whitney GTFエンジン問題 → RTX provides update on Pratt & Whitney GTF fleet(RTX公式ニュース, 2023-09-11)Reuters – RTX engine issue will ground 350 planes per year through 2026(2023-09-11)(確認日:2025-12-11)

Posted by 南 一矢