RTX(レイセオンテクノロジーズ) の配当推移

配当

レイセオンテクノロジーズ(Raytheon Technologies Corporation)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

graph

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 2.31% 7% 70% 2.48 107.3 3.55
2023 2.57% 7% 104% 2.32 90.2 2.23
2022 2.30% 8% 62% 2.16 93.8 3.5
2021 2.43% -7% 78% 2.005 82.6 2.56
2020 3.17% -27% -83% 2.16 68.2 -2.59
2019 3.54% 4% 46% 2.94 83.1 6.41
2018 3.53% 4% 44% 2.84 80.5 6.5
2017 3.70% 4% 48% 2.72 73.5 5.7
2016 4.13% 2% 43% 2.62 63.5 6.12
2015 3.81% 8% 30% 2.56 67.2 8.61
2014 3.36% 7% 35% 2.36 70.3 6.82
2013 3.54% 8% 35% 2.2 62.1 6.25
2012 4.13% 9% 36% 2.03 49.2 5.66
2011 3.73% 10% 34% 1.87 50.2 5.49
2010 3.79% 10% 36% 1.7 44.8 4.74
2009 4.45% 14% 37% 1.54 34.6 4.12
2008 3.37% 15% 28% 25 40.1 4.9

【出典】

# レイセオン・テクノロジーズ(RTX)の財務分析と配当実績

安定成長と戦略的変革期の配当実績

レイセオン・テクノロジーズ(RTX)の配当実績は、航空宇宙・防衛産業特有のサイクルと戦略的統合を反映しています。同社は2008年から2019年まで一貫した配当成長を維持していましたが、2020年のCOVID-19パンデミックと企業統合に伴い配当政策に変化が生じました。2020年にはユナイテッド・テクノロジーズとレイセオンの統合で誕生した新会社として、パンデミックの航空事業への深刻な影響により配当を27%削減。2021年にも7%の追加削減を実施しましたが、2022年からは防衛部門の堅調な業績に支えられて安定した配当成長(7-8%)を再開しています。

配当成長率の推移

RTXの配当成長率は時期により特徴的なパターンを示しています:

  • 2008〜2010年:二桁成長期(10〜15%の高成長)
  • 2011〜2015年:安定成長期(8〜10%の安定成長)
  • 2016〜2019年:緩やかな成長期(2〜4%の抑制された成長)
  • 2020〜2021年:リストラクチャリング期(-27%、-7%の減配)
  • 2022〜2024年:回復期(7〜8%の一貫した成長)

このパターンは、防衛支出サイクル、商業航空需要の変動、そして企業再編の影響を反映しています。特に注目すべきは、2020年の大幅減配の後、比較的短期間で安定した配当成長を再開した点です。これは、軍事・防衛事業の安定した受注と予算確保、そして商業航空部門の回復が寄与しています。特に2022年以降のロシア・ウクライナ紛争などの地政学的緊張の高まりが、防衛産業全体の見通しを改善させる要因となっています。

配当利回りの価値

RTXの配当利回りは、航空宇宙・防衛セクターの中では競争力のある水準を維持しています。同社の特徴は:

  • 長期的には平均2.0〜3.0%程度の配当利回りを維持
  • 防衛関連企業としての安定性と航空関連企業としての成長性のバランス
  • 地政学的リスクが高まる環境下での安全資産としての価値

この配当利回りの水準は、米国の産業セクター企業の中では相対的に魅力的と言えます。特に注目すべきは、防衛予算の増加傾向や長期契約に基づく事業の安定性が、配当の持続可能性を支えている点です。2020-2021年のパンデミック期の航空事業低迷時でも、防衛事業が下支えとなったことは、同社の事業ポートフォリオの強みを示しています。

配当性向の持続可能性

配当性向は「1株配当 ÷ EPS」で計算される指標ですが、RTXの場合、この比率は時期により大きく変動しています。2008年から2019年までは比較的安定した27%〜47%の範囲で推移していましたが、パンデミック後の2021年以降は60%〜101%と高い水準にあります。

配当性向の変動要因:この変動は主に以下の要因によるものと考えられます:

  • 2020年:商業航空部門の大幅な業績悪化による純損失(-$3,519M)
  • 2021年:回復途上ながらも抑制されたEPS($2.56)に対する配当維持の意向
  • 2023年:EPS低下($2.23)の一方で配当増加($2.32)継続による配当性向の一時的上昇(101%)
  • 2024年:業績回復(EPS:$3.55)に伴う配当性向の正常化(67%)

業界特性の影響:防衛産業の特徴として、長期契約や政府予算に基づく収益の予測可能性が高いことがあります。一方で商業航空部門は景気循環性が高く、パンデミックのような予期せぬ事象に大きく影響されます。RTXはこの両方の事業を持つため、短期的な収益変動があっても長期的な配当支払い能力は比較的安定しています。

実際に、RTXのキャッシュフロー指標を見ると、配当性向が100%を超えた2023年でも、営業キャッシュフロー($7,883M)は配当支払い(約$3,400M)を十分にカバーする水準を維持しています。これは、会計上の純利益よりも、営業キャッシュフローが実質的な配当支払い能力をより正確に示していることを表しています。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 59,119 6,161 10 4,689
2009 52,425 5,353 10 3,829
2010 52,275 5,906 11 4,373
2011 55,754 6,590 12 4,979
2012 57,708 6,646 12 5,130
2013 56,600 6,877 12 5,721
2014 57,900 7,321 13 6,220
2015 56,098 6,383 11 7,608
2016 57,244 3,880 7 5,055
2017 59,837 5,631 9 4,552
2018 34,701 6,322 18 5,269
2019 45,349 8,883 20 5,537
2020 56,587 3,606 6 -3,519
2021 64,388 7,071 11 3,864
2022 67,074 7,168 11 5,197
2023 68,920 7,883 11 3,195
2024 80,738 7,159 9 4,774

収益性と効率性の変動

RTXの財務データからは、航空宇宙・防衛企業としての特性と企業再編の影響が見てとれます:

  • 2018年の売上高の大幅減少(-42%)は主に事業再編や分社化の影響
  • 2019年から2024年にかけての着実な売上成長($45,349M→$80,738M、78%増)は企業統合と防衛需要の拡大を反映
  • 営業CFマージンは2018-2019年に一時的に高水準(18-20%)を記録した後、11%前後で安定
  • 純利益は2020年に大幅赤字(-$3,519M)を記録するも、翌年から回復基調

特に注目すべきは、2020年のパンデミックによる商業航空需要の急減と、それに伴う業績悪化からの迅速な回復です。2021年以降の売上高と営業CFの安定的な成長は、防衛部門の堅調な需要と商業航空部門の段階的回復が寄与しています。2024年の大幅な売上成長(17%)は、世界的な防衛予算の増加と航空旅客需要の回復を反映しています。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 6,161 16 -2,336 -2,238
2009 5,353 -13 -1,104 -4,191
2010 5,906 10 -3,187 -3,153
2011 6,590 12 -707 -4,005
2012 6,646 1 -15,821 8,021
2013 6,877 3 -1,113 -5,940
2014 7,321 6 -2,080 -4,261
2015 6,383 -13 6,206 -10,785
2016 3,880 -39 -2,503 -1,188
2017 5,631 45 -3,019 -993
2018 6,322 12 -16,973 7,965
2019 8,883 41 -3,092 -4,564
2020 3,606 -59 3,102 -5,274
2021 7,071 96 -1,364 -6,685
2022 7,168 1 -2,829 -5,859
2023 7,883 10 -3,039 -4,527
2024 7,159 -9 -1,534 -6,617

RTXの強みは、防衛契約の長期的な安定性に支えられたキャッシュフロー生成能力にあります。ただし、商業航空部門の影響により、一定の変動も見られます:

  • 2016年と2020年の営業CF大幅減少(-39%、-59%)は、それぞれ事業再編とCOVID-19パンデミックの影響
  • 2021年の急速な回復(96%増)は、コスト削減施策と防衛部門の堅調な需要を反映
  • 2012年と2018年の大規模な投資支出(-$15,821M、-$16,973M)は主要な企業買収による影響
  • 一貫してマイナスの財務CF(2012年と2018年を除く)は、配当支払いと自社株買いを中心とした株主還元の継続を示す

特筆すべきは、2020年のパンデミック危機時にも投資CFがプラス($3,102M)に転じ、現金確保を優先した柔軟な資本配分が実施された点です。その後の2021-2024年は、投資CFを適切な水準(-$1,364M〜-$3,039M)に維持しながら、財務CFを通じた株主還元(-$4,527M〜-$6,685M)を拡大しています。

キャッシュフロー分析のポイント:RTXのキャッシュフローパターンは、「安定性と成長の両立」という防衛航空企業特有の特性を反映しています。防衛部門からの安定したキャッシュフローが、商業航空部門の景気循環性をバランスさせる役割を果たしています。また、長期契約に基づく事業の特性上、将来のキャッシュフローの予測可能性が高く、これが持続的な株主還元を支える基盤となっています。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率と負債比率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 56,837 39,911 15,763 28 253
2009 55,762 34,374 20,066 36 171
2010 58,493 35,844 21,385 37 168
2011 61,452 38,274 21,880 36 175
2012 89,409 62,102 25,914 29 240
2013 90,594 57,264 31,866 35 180
2014 91,206 58,502 31,213 34 187
2015 87,484 58,518 27,358 31 214
2016 89,706 60,241 27,579 31 218
2017 96,920 65,368 29,610 31 221
2018 134,211 93,492 38,446 29 243
2019 139,615 95,289 41,774 30 228
2020 162,153 88,269 72,163 45 122
2021 161,404 86,705 74,699 46 116
2022 158,864 84,650 74,214 47 114
2023 161,869 100,424 61,445 38 163
2024 162,861 100,903 61,958 38 163

RTXの資本構成には、企業再編と成長戦略の影響が明確に表れています:

  • 2012年の総資産の急増($61,452M→$89,409M)は主要な企業買収を反映
  • 2018-2020年の総資産の大幅増加($96,920M→$162,153M)はレイセオンとユナイテッド・テクノロジーズの統合を反映
  • 2020年の株主資本の急増($41,774M→$72,163M)は企業統合による資本基盤の強化
  • 2020-2022年の自己資本率の大幅改善(30%→47%)と負債比率の低下(228%→114%)
  • 2023年の負債比率の上昇(114%→163%)は戦略的な資本再配分を示唆

RTXの財務戦略は、長期的な事業安定性と成長投資のバランスを重視しています。2020年の大型合併を経て財務体質を大幅に強化し、自己資本率を一時47%まで高めました。2023-2024年の自己資本率の低下(38%)は、戦略的な資本配分の見直しや株主還元の拡大によるものと考えられますが、依然として競争力のある水準を維持しています。

流動比率は2017年の135%から2024年には99%へと低下傾向にありますが、防衛産業の特性として長期契約に基づく安定した収入があるため、短期的な流動性懸念は限定的と考えられます。ただし、100%を下回った現在の水準は、運転資本の効率性と短期債務管理について注視が必要な状況を示しています。

まとめ:長期配当投資家にとってのRTXとは?

RTXは、防衛・航空宇宙産業の主要企業として、安全保障環境の変化と航空需要の回復を背景に、安定した成長と株主還元のバランスを追求しています。同社は2020年のパンデミックによる一時的な減配後、比較的短期間で配当成長を再開し、株主価値の向上に注力しています。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 防衛部門と商業航空部門のバランスの取れた事業ポートフォリオ
  • 長期政府契約に基づく安定した収益基盤
  • 技術革新と研究開発への継続的な投資
  • 2022年以降の安定した配当成長(7-8%)の再開
  • 地政学的緊張の高まりによる防衛支出増加の恩恵
  • 商業航空需要の回復による成長機会
  • 2020年の企業統合による規模の経済とシナジー効果

一方で、注意すべき点としては:

  • 過去の配当削減実績(2020-2021年)
  • 商業航空部門の景気循環性
  • 政府予算や防衛政策変更のリスク
  • 最近の高い配当性向(60-101%)の持続可能性
  • 2023年以降の負債比率の上昇傾向
  • 国際的な競争激化と調達コスト上昇の圧力
  • 技術革新の速度に対応するための継続的な投資必要性
  • 規制環境の変化や輸出規制のリスク
  • サプライチェーンの脆弱性と部品調達の課題

投資家へのポイント:RTXへの投資は、「安定性と成長のバランス」という特性を持っています。防衛部門は政府予算に基づく長期契約により景気変動に対する耐性を提供し、商業航空部門は景気回復時の成長機会を提供します。この組み合わせは、市場環境の変化に対する強靭性を高めるとともに、多様な成長ドライバーを確保しています。配当投資家としては、直近の配当成長の継続性に期待しつつ、世界の安全保障環境の変化と航空業界の回復が、長期的な配当能力を支える基盤となることを評価すべきでしょう。特に、世界各国の防衛予算増加トレンドと新興技術(ミサイル防衛、サイバーセキュリティ、宇宙技術など)における同社の強みが、将来の成長と株主還元の原動力となる可能性があります。

よくある質問

RTXの配当はどれくらい安全ですか?

RTXの配当は相対的に安全と評価できますが、過去の削減実績を考慮すると「無条件に安全」とは言えません。2020-2021年のパンデミック期に配当を削減した履歴がありますが、これは航空業界全体が直面した前例のない危機への対応でした。現在の配当安全性を支える要素としては、(1)防衛部門の長期契約に基づく安定した収益、(2)商業航空需要の回復、(3)強固なキャッシュフロー生成能力、(4)改善された財務体質が挙げられます。直近の配当性向(67%)は理想的な水準より高いものの、営業キャッシュフロー($7,159M)は配当支払いを十分にカバーしています。世界的な防衛予算の増加傾向と地政学的緊張の高まりを考慮すると、短期的な配当削減リスクは限定的と考えられます。

防衛予算の変動がRTXの配当に与える影響は?

防衛予算の変動はRTXの収益と配当能力に影響しますが、その影響は緩和される傾向にあります。これは、(1)防衛契約が複数年にわたる長期的なものであるため、短期的な予算変動の影響が分散される、(2)RTXが米国だけでなく世界各国の防衛予算から収益を得ており、地理的分散がリスク軽減に寄与している、(3)商業航空部門が収益源の多様化に貢献している—という要因によります。現在の地政学的環境では、米国を含む多くの国で防衛予算が増加傾向にあり、これはRTXの収益と配当能力にとって追い風となっています。ただし、長期的な政策転換や財政緊縮政策が実施された場合には、配当成長に影響する可能性があります。RTXは技術革新と効率化を通じて、このようなリスクに対する耐性を高める取り組みを継続しています。

商業航空と防衛のデュアルビジネスモデルは、配当の安定性にどう影響しますか?

RTXのデュアルビジネスモデル(商業航空と防衛)は、配当の安定性に両面の影響をもたらします。プラス面では、(1)景気循環の異なるセクターへの分散投資効果、(2)防衛部門の安定性と商業航空部門の成長性の組み合わせ、(3)技術やサプライチェーンの共有によるシナジー効果—が挙げられます。2020年のパンデミック時には、商業航空需要の急減が会社全体の業績に大きく影響しましたが、防衛部門の安定性がその影響を部分的に緩和しました。一方、市場環境が正常化した現在は、両部門が相互に補完し合い、安定したキャッシュフロー基盤を提供しています。このビジネスモデルにより、RTXは単一セクターの企業と比較して、より安定した配当政策を維持できる可能性が高いと言えます。ただし、両セクターが同時に圧力を受ける稀なシナリオ(例:財政緊縮と景気後退の同時発生)では、配当の安定性が試される可能性があります。

2023年と2024年の純利益変動(-39%から+49%)の主な原因は何ですか?

2023年の純利益大幅減少(-39%、$5,197M→$3,195M)と2024年の急回復(+49%、$3,195M→$4,774M)は、主に以下の要因によるものと考えられます:(1)2023年のエンジン部門における品質問題と関連する特別費用の計上、(2)サプライチェーンの混乱と部品調達コストの上昇、(3)一部防衛プログラムの開発費用超過、(4)2024年における商業航空需要の本格的回復と運航機数の増加、(5)防衛部門の受注増加と納入ペースの改善、(6)コスト削減プログラムと運営効率化の効果。特に注目すべきは、この純利益の変動にもかかわらず、営業キャッシュフローが比較的安定していた点(2023年:$7,883M、2024年:$7,159M)であり、これが配当支払い能力の基盤となっています。純利益の変動には一時的・特殊要因が大きく影響しているのに対し、営業キャッシュフローはより基礎的な事業パフォーマンスを反映していると考えられます。この点は、配当投資家にとって重要な安心材料となるでしょう。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢