UPS:ユナイテッドパーセルの配当推移
ユナイテッドパーセル(United Parcel Service, Inc.)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。
権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。
配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート
年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等
年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。
年 | 配当 | 平均株価 | 年EPS | |||
---|---|---|---|---|---|---|
平均利回り | 成長率 | 配当性向 | 年計 | |||
2025(見込み) | 7.8% | 0.6% | 100%* | 6.56 | 84.0 | 6.53 |
2024 | 4.68% | 1% | 97% | 6.52 | 139.4 | 6.75 |
2023 | 3.79% | 7% | 83% | 6.48 | 171.1 | 7.8 |
2022 | 3.21% | 49% | 46% | 6.08 | 189.3 | 13.2 |
2021 | 2.14% | 1% | 28% | 4.08 | 191 | 14.68 |
2020 | 3.11% | 5% | 262% | 4.04 | 129.8 | 1.54 |
2019 | 3.47% | 5% | 3.84 | 110.8 | 5.11 | |
2018 | 3.21% | 10% | 66% | 3.64 | 113.5 | 5.51 |
2017 | 2.97% | 6% | 59% | 3.32 | 111.9 | 5.61 |
2016 | 2.95% | 7% | 81% | 3.12 | 105.9 | 3.86 |
2015 | 2.90% | 9% | 55% | 2.92 | 100.7 | 5.35 |
2014 | 2.66% | 8% | 82% | 2.68 | 100.7 | 3.28 |
2013 | 2.80% | 9% | 54% | 2.48 | 88.6 | 4.61 |
2012 | 3.01% | 10% | 275% | 2.28 | 75.7 | 0.83 |
2011 | 2.94% | 11% | 54% | 2.08 | 70.7 | 3.84 |
2010 | 2.91% | 4% | 56% | 1.88 | 64.7 | 3.33 |
2009 | 3.45% | 0% | 92% | 1.8 | 52.2 | 1.96 |
2008 | 2.80% | 7% | 61% | 1.8 | 64.4 | 2.94 |
*2025年は年度途中のため見込み値。アナリスト予想EPSに基づく。
【出典】
一貫して成長する配当の実績
United Parcel Service(UPS)の配当実績は、物流業界の景気循環性や外部環境の変動にもかかわらず、極めて安定した成長を示しています。2008年から2025年までの17年間、一度も配当を削減することなく、年間配当を$1.80から$6.56へと約264%増加させてきました。この一貫した配当増加は、同社の強固なビジネスモデルと株主還元に対する揺るぎない姿勢を反映しています。
特に注目すべきは、UPSが1999年の上場以来、26年連続で配当を維持または増配している点です。2008年の金融危機、2020年のCOVID-19パンデミック、そして2025年の貿易摩擦激化など、世界経済に大きな混乱が生じた時期においても配当を維持・増加させてきた実績は特筆に値します。
2025年の業績動向と課題
2025年のUPSは重要な変革期を迎えています。第1四半期の売上高は$21.5B(前年同期比-0.7%)、第2四半期は$21.2B(前年同期比-0.8%)と微減が続いていますが、これは戦略的な事業転換の結果でもあります:
- 「Better Not Bigger」戦略の継続:低利益率の大口顧客との取引縮小(最大顧客との取引量を2026年後半までに50%以上削減することで合意)
- Transformation 2.0プログラム:管理層の削減、事業ポートフォリオの見直し、技術投資によるコスト削減
- Fit to Serveイニシアティブ:約14,000人(主に管理職)の削減により効率的なオペレーションモデルを構築
- 関税影響への対応:中国からの低価値商品(800ドル未満)に対する新関税が需要に影響
これらの変革により、UPSは2025年通年で約$3.5Bのコスト削減を見込んでいます。短期的には売上減少要因となっていますが、長期的な収益性と競争力の向上を目指した戦略的投資と位置づけられます。
配当成長率の推移
UPSの配当成長率は、業績と戦略的優先順位を反映して変動していますが、長期的には堅実な上昇トレンドを維持しています:
- 2008〜2010年:金融危機の影響期(0〜7%の成長)
- 2011〜2015年:回復と成長期(8〜11%の安定した成長)
- 2016〜2020年:変革期(5〜10%の成長)
- 2021年:パンデミック後の調整(1%の控えめな増加)
- 2022年:記録的業績を背景とした大幅増配(49%)
- 2023〜2025年:正常化期(0.6〜7%の成長)
2025年の0.6%増配は控えめですが、現在の変革プログラムの成果が現れる2026年以降の成長加速を見据えた持続可能な水準と評価できます。実際、アナリストの多くは2026年以降の配当成長率回復を予想しています。
配当性向と持続可能性
配当性向(「1株配当 ÷ EPS」)は、UPSの場合、業績の変動に伴って大きく変動しています。2025年の配当性向は約100%と高水準になる見込みですが、これには以下の要因があります:
- 変革コストの一時的影響:Transformation 2.0やFit to Serveによる特別費用が利益を圧迫
- 関税の影響:中国からの輸入商品への新関税による荷物量減少
- 戦略的事業転換:低利益率顧客からの脱却による短期的な売上減少
しかし、営業キャッシュフローは依然として堅調で、2025年上半期でも配当支払いを十分にカバーしています。同社の営業CFは過去10年間の平均で年間約$10B水準を維持しており、年間配当支払額約$5.5Bに対して十分な余裕があります。
財務パフォーマンスと成長見通し
2025年上半期業績と通年見通し
期間 | 売上高($B) | 営業利益($B) | 希薄化EPS($) | 調整後EPS($) |
---|---|---|---|---|
2025年Q2 | 21.2 | 1.7 | 1.51 | 1.55 |
2025年Q1 | 21.5 | 1.7 | 1.40 | 1.49 |
2025年通年見通し | 89.0 | 9.6 | – | 6.53 |
2024年通年 | 91.1 | 8.9 | 6.75 | – |
2025年通年では売上高約$89B(前年比-2.3%)、営業マージン約10.8%を見込んでいます。売上減少は戦略的な顧客ポートフォリオ転換による計画的なものであり、収益性重視の方針を反映しています。
主要財務指標の推移
以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。
年度 | 売上高 | 営業CF | 同マージン | 純利益 |
---|---|---|---|---|
2025(見込み) | 89,000 | 10,500 | 12 | 5,730 |
2024 | 91,070 | 10,122 | 11 | 5,782 |
2023 | 90,958 | 10,238 | 11 | 6,708 |
2022 | 100,338 | 14,104 | 14 | 11,548 |
2021 | 97,287 | 15,007 | 15 | 12,890 |
2020 | 84,628 | 10,459 | 12 | 1,343 |
2019 | 74,094 | 8,639 | 12 | 4,440 |
2018 | 71,861 | 12,711 | 18 | 4,791 |
2017 | 66,585 | 1,479 | 2 | 4,905 |
2016 | 61,610 | 6,473 | 11 | 3,422 |
2015 | 58,363 | 7,430 | 13 | 4,844 |
2014 | 58,232 | 5,726 | 10 | 3,032 |
2013 | 55,438 | 7,304 | 13 | 4,372 |
2012 | 54,127 | 7,216 | 13 | 807 |
2011 | 53,105 | 7,073 | 13 | 3,804 |
2010 | 49,545 | 3,835 | 8 | 3,338 |
2009 | 45,297 | 5,285 | 12 | 1,968 |
2008 | 51,486 | 8,426 | 16 | 3,003 |
収益性と効率性の分析
UPSの財務データからは、物流業界の特性と同社の戦略的転換が見て取れます。2025年は変革コストが利益を圧迫していますが、これらの投資により2026年以降の収益性改善が期待されます:
- 売上高は2008年の$51,486Mから2022年には$100,338Mへと約95%増加し、2023〜2025年は戦略的調整期
- 営業CFマージンは8〜18%の範囲で変動しているが、長期的には比較的安定
- 純利益は大きく変動(特に2012年、2020年の低水準と2021〜2022年の記録的高水準)
- 2025年の業績調整は、変革投資と戦略的顧客ポートフォリオ転換の一時的影響
特に注目すべきは、同社が実施中の$3.5Bのコスト削減プログラムです。これにより2026年以降のマージン改善と利益成長が期待されており、アナリストの多くは2026年のEPS成長率を15-20%と予想しています。
キャッシュフロー基盤の安定性
以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。
年度 | 営業CF | 成長率 | 投資CF | 財務CF |
---|---|---|---|---|
2025(見込み) | 10,500 | 4 | -3,500 | -6,500 |
2024 | 10,122 | -1 | -217 | -6,850 |
2023 | 10,238 | -27 | -7,133 | -5,534 |
2022 | 14,104 | -6 | -7,472 | -11,185 |
2021 | 15,007 | 43 | -3,818 | -6,823 |
2020 | 10,459 | 21 | -5,283 | -4,517 |
2019 | 8,639 | -32 | -6,061 | -1,727 |
2018 | 12,711 | 759 | -6,330 | -5,692 |
2017 | 1,479 | -77 | -4,971 | 3,287 |
2016 | 6,473 | -13 | -2,563 | -3,140 |
2015 | 7,430 | 30 | -5,309 | -1,565 |
2014 | 5,726 | -22 | -2,801 | -5,161 |
2013 | 7,304 | 1 | -2,114 | -7,807 |
2012 | 7,216 | 2 | -1,335 | -1,817 |
2011 | 7,073 | 84 | -2,537 | -4,862 |
2010 | 3,835 | -27 | -654 | -1,346 |
2009 | 5,285 | -37 | -1,248 | -3,045 |
2008 | 8,426 | 650 | -3,179 | -6,702 |
UPSの強みは、景気変動に対する耐性と安定したキャッシュフロー生成能力にあります。2025年は変革投資により投資CFが増加していますが、これは将来の競争力強化のための戦略的投資です:
- 営業CFは$10B水準を安定的に維持(年間配当支払い$5.5Bを十分カバー)
- 2025年の投資CF増加は、デジタル化・自動化技術への戦略投資
- 財務CFのマイナスは安定した配当支払いと自社株買いの継続を示す
- 変革完了後の2026年以降、フリーキャッシュフロー増加が期待される
財務構造の安定性
以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。
年度 | 総資産 | 総負債 | 株主資本 | 自己資本率 | 負債比率 |
---|---|---|---|---|---|
2025(見込み) | 71,000 | 53,500 | 17,500 | 25 | 306 |
2024 | 70,070 | 53,327 | 16,743 | 24 | 319 |
2023 | 70,857 | 53,543 | 17,314 | 24 | 309 |
2022 | 71,124 | 51,321 | 19,803 | 28 | 259 |
2021 | 69,405 | 55,136 | 14,269 | 21 | 386 |
2020 | 62,408 | 61,739 | 657 | 1 | 9397 |
2019 | 57,857 | 54,574 | 3,267 | 6 | 1670 |
2018 | 50,016 | 46,979 | 3,021 | 6 | 1555 |
2017 | 45,574 | 44,550 | 994 | 2 | 4482 |
2016 | 40,377 | 39,948 | 405 | 1 | 9864 |
2015 | 38,311 | 35,820 | 2,470 | 6 | 1450 |
2014 | 35,440 | 33,282 | 2,141 | 6 | 1555 |
2013 | 36,212 | 29,724 | 6,474 | 18 | 459 |
2012 | 38,863 | 34,130 | 4,653 | 12 | 734 |
2011 | 34,701 | 27,593 | 7,035 | 20 | 392 |
2010 | 33,597 | 25,550 | 7,979 | 24 | 320 |
2009 | 31,883 | 24,187 | 7,630 | 24 | 317 |
2008 | 31,879 | 25,099 | 6,780 | 21 | 370 |
UPSの資本構成は2021年以降大幅に改善しており、2025年も自己資本率25%水準を維持する見込みです。これは2014〜2020年の財務圧迫期(自己資本率1〜6%)から劇的に回復しており、配当支払い能力の安定性を裏付けています。
まとめ:長期配当投資家にとってのUPSとは?
United Parcel Service(UPS)は、2025年現在、物流業界のリーダーとして重要な変革期を迎えています。長期配当投資家にとって、UPSの特性を理解することは重要です。
同社の強みは以下の点にあります:
- 26年連続の配当維持・増配記録(1999年上場以来、一度も配当削減なし)
- 強力で安定したキャッシュフロー生成能力(年間$10B水準の営業CF)
- グローバルな物流ネットワークとブランド力
- eコマース成長からの構造的な恩恵
- 2021年以降の大幅に改善された財務基盤(自己資本率24-25%)
- 進行中の$3.5B変革プログラムによる将来の効率性向上
- 過去の危機からの回復力(金融危機、パンデミック、貿易摩擦)
一方で、注意すべき点としては:
- 貿易政策の影響:中国からの輸入商品への関税が荷物量に影響
- 変革プログラムの短期的影響:2025年は変革コストが利益を圧迫
- 大手顧客依存リスク:最大顧客との取引縮小により短期的な売上減少
- 労働コストの上昇と労使関係の課題
- 競争環境の変化:テクノロジー企業の物流参入
- 高い配当利回り:現在7.8%は過去の水準を大幅に上回る
よくある質問
UPSの配当はどれくらい安全ですか?
UPSの配当は非常に安全と評価できます。同社は1999年の上場以来26年連続で配当を維持または増配しており、金融危機やパンデミックといった危機的状況においても配当を削減したことがありません。2025年の配当性向は約100%と高い水準ですが、これは主に変革プログラムの一時的なコストを反映したものです。営業キャッシュフローは年間約$10.5Bと配当支払い$5.5Bを十分にカバーしており、自己資本率も25%と健全な水準を維持しています。現在の高配当利回り7.8%は、変革期における一時的な株価調整の結果であり、配当カット懸念による市場の過度な悲観を反映している可能性があります。
2025年の変革プログラムはいつ頃効果が現れますか?
UPSの変革プログラム(Transformation 2.0、Fit to Serve)の効果は2026年から本格的に現れると予想されます。同社は2025年中に約$3.5Bのコスト削減を実現し、約14,000人の人員削減と業務効率化を完了させる計画です。アナリストの多くは、これらの施策により2026年の営業マージンが12-13%程度(2025年見込み10.8%から改善)、EPSが15-20%成長すると予想しています。また、最大顧客との取引量削減も2026年後半までに完了予定で、その後は高利益率顧客へのフォーカスによる収益性改善が期待されます。投資家は2025年を「調整の年」、2026年以降を「成長回復の年」として位置づけることが適切でしょう。
現在の7.8%という高配当利回りは持続可能ですか?
現在の7.8%という配当利回りは、株価が過度に下落した結果の一時的な高水準と考えられます。UPSの過去10年間の平均配当利回りは3-4%程度であり、現在の水準は明らかに異常値です。この高利回りには以下の要因があります:
- 変革プログラムによる短期的な業績圧迫への市場の懸念
- 貿易摩擦と関税による事業環境悪化への不安
- 大手顧客との取引縮小による売上減少懸念
- 景気後退リスクに対する物流株全般の売り
しかし、これらの要因の多くは一時的または戦略的なものです。変革プログラムの成功により2026年以降の業績回復が実現すれば、株価は上昇し配当利回りは正常化(4-5%程度)すると予想されます。現在の高利回りは、長期投資家にとって優良な配当株を魅力的な利回りで取得できる貴重な機会と捉えることができるでしょう。ただし、変革の進捗と外部環境の変化には継続的な注意が必要です。
【出典】
- 配当情報
- 年間報告書
- IRページ
- Macrotrends – UPS Financial Statements
- 平均株価はグーグルファイナンス関数を用いて計算
- 2025年データは実績値とアナリスト予想の組み合わせ