KHC:クラフトハインツの配当推移

配当

クラフト・ハインツ(KHC)配当分析
2019年大幅減配からの再生への道

クラフト・ハインツ(The Kraft Heinz Company)は、2019年に36%の大幅減配を実施し、配当貴族の地位を失いました。その後の再建への取り組みと現在の配当政策を、MacroTrends.comなどのデータを用いて詳細に分析します。

まず、配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみましょう。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

(この株価データはグーグルファイナンス関数から取得。直近の配当関連情報はStockprice.comを参照)

データソースの制約について

**重要な注意事項**:MacroTrends.comでは、年次の詳細な配当データ(配当利回り、配当成長率、配当性向の年次推移)が表形式で直接提供されていません。MacroTrendsでは四半期ごとの配当支払額や直近の配当利回りは確認できますが、年次で集計された詳細な配当成長の歴史データは提供されていません。

特にクラフト・ハインツは2015年の合併以降、2019年の大幅減配という特異な歴史があるため、配当実績については、MacroTrends以外の複数のソース(株式情報サイト、投資分析プラットフォーム等)を参照して確認しています。

年間EPS・平均株価・配当データ分析

年間EPSと平均株価(MacroTrendsデータに基づく)

まず、MacroTrendsで直接確認可能なクラフト・ハインツの年次EPSと平均株価の推移を確認します。これらのデータは配当支払能力の基盤となる重要な指標です。

年間EPS ($) 平均株価 ($)
2024 2.26 27.31
2023 2.31 33.42
2022 1.91 37.89
2021 0.82 40.12
2020 0.29 30.45
2019 -10.30 31.78
2018 8.03 56.23
2017 8.91 82.45
2016 2.84 82.12
2015 1.84 73.45
2014 -0.30 56.78
2013 3.73 45.67
2012 0.61 38.45

EPSに基づく配当支払能力の分析

MacroTrendsのデータによると、**EPS(1株当たり利益)**は2019年の-$10.30という大幅な赤字から、2024年には**$2.26**へと回復しています。2019年の巨額損失は主に150億ドルを超えるブランド価値の減損によるもので、この時期に配当を36%削減したことは財務健全性の観点から適切な判断でした。

2020年以降、EPSは着実に改善しており、配当支払能力も回復傾向にあります。ただし、EPSの変動が大きく、安定性に欠ける点は注意が必要です。

配当成長の実績(複数ソース統合分析)

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)の推移について、MacroTrends以外の信頼できる配当専門サイトのデータを統合して分析します。

配当データ* 平均株価** 年EPS**
平均利回り 成長率 配当性向 年間配当
2024 5.86% 0% 71% 1.60 27.31 2.26
2023 4.78% 0% 69% 1.60 33.42 2.31
2022 4.22% 0% 84% 1.60 37.89 1.91
2021 3.99% 0% 195% 1.60 40.12 0.82
2020 5.25% 0% 552% 1.60 30.45 0.29
2019 5.03% -36% N/A 1.60 31.78 -10.30
2018 4.45% 0% 31% 2.50 56.23 8.03
2017 3.03% 2% 28% 2.50 82.45 8.91
2016 2.98% 5% 86% 2.45 82.12 2.84
2015 3.17% 7% 127% 2.33 73.45 1.84
2014 3.85% 10% N/A 2.18 56.78 -0.30
2013 4.34% 9% 53% 1.98 45.67 3.73
2012 4.72% 297% 1.82 38.45 0.61

* 配当データは複数の投資情報サイトから統合
** EPSと平均株価はMacroTrends.comより

連続増配年数
1年

2019年減配率
-36%

2024年配当性向
71%

2024年配当
$1.60

配当政策の転換と現状

クラフト・ハインツ(KHC)は、2015年のクラフトフーズとH.J.ハインツの合併により誕生した食品業界の巨人です。しかし、**2019年に年間配当を$2.50から$1.60へと36%削減**という痛みを伴う決断を下しました。これは150億ドルを超えるブランド価値の減損と巨額の赤字により、財務健全性を優先した結果です。

2020年以降、配当は年間$1.60で維持されており、配当利回りは5.86%と高水準です。しかし、配当成長は停止しており、かつての「配当貴族」としての地位回復には至っていません。

財務パフォーマンスと成長見通し

主要財務指標の推移

以下の表では、売上高、営業CF、純利益をM$(百万ドル)単位、営業CFマージンは%単位で表示しています。

年度 売上高 (M$) 営業CF (M$) 同マージン (%) 純利益 (M$)
2024 25,846 4,184 16.2 2,744
2023 26,640 3,976 14.9 2,855
2022 26,485 2,469 9.3 2,363
2021 26,042 5,364 20.6 1,012
2020 26,185 5,560 21.2 356
2019 24,977 3,914 15.7 -12,629
2018 26,268 4,302 16.4 10,192
2017 26,076 2,803 10.7 10,999
2016 26,487 3,672 13.9 3,632
2015 18,338 3,070 16.7 2,281
2014 10,922 1,540 14.1 -340
2013 11,441 1,715 15.0 4,154
2012 11,854 1,800 15.2 682

配当支払能力の分析

フリーキャッシュフローによる配当カバー分析

クラフト・ハインツの配当支払能力は改善傾向にあります。2024年のフリーキャッシュフローは31.6億ドルで、配当支払額約19.3億ドルを上回っています。これは**1.6倍の配当カバー比率**を意味し、現在の配当水準は維持可能です。

配当支払余力の推移(2015年以降)

以下の表では、フリーCF、年間配当支払額をM$(百万ドル)単位、配当カバー比率を倍数で表示しています。

年度 フリーCF (M$) 年間配当支払額 (M$) 配当カバー比率
2024 3,160 1,931 1.6
2023 2,963 1,965 1.5
2022 1,553 1,960 0.8
2021 4,459 1,959 2.3
2020 4,459 1,956 2.3
2019 2,813 1,953 1.4
2018 3,201 3,071 1.0
2017 1,702 3,042 0.6
2016 2,571 2,985 0.9
2015 2,420 2,845 0.9

配当支払余力の分析結果:

  • **改善傾向**:2022年の0.8倍から2024年の1.6倍へと大幅改善
  • **減配の効果**:2019年の減配により配当支払負担が軽減
  • **キャッシュフロー改善**:事業再編とコスト削減により営業CFが改善
  • **持続可能性**:現在の配当水準は維持可能だが、増配余地は限定的

バランスシート分析と財務健全性評価

以下の表では、総資産、総負債、株主資本をM$(百万ドル)単位、自己資本率およびROEを%単位で表示しています。

年度 総資産 (M$) 総負債 (M$) 株主資本 (M$) 自己資本率 (%) ROE (%) 負債比率 (%)
2024 88,287 38,968 49,319 55.9 5.5 79
2023 90,339 40,651 49,688 55.0 5.8 82
2022 90,513 41,683 48,830 53.9 4.9 85
2021 93,394 43,946 49,448 53.0 2.1 89
2020 99,830 49,587 50,243 50.3 0.7 99
2019 103,261 49,701 53,560 51.9 -22.0 93
2018 103,461 51,690 51,771 50.0 19.8 100
2017 120,225 55,591 64,634 53.8 18.6 86
2016 120,708 64,482 56,226 46.6 6.8 115
2015 122,973 66,715 56,258 45.7 4.1 119

バランスシート分析の重要な観点

**自己資本率の推移と戦略的意味**:

  • **改善傾向**:2015年の45.7%から2024年の55.9%へと着実に改善
  • **負債削減**:総負債は2016年の646億ドルから2024年の390億ドルへと大幅減少
  • **資産圧縮**:総資産も2015年の1,230億ドルから2024年の883億ドルへと縮小
  • **業界比較**:食品業界として健全な水準(ペプシコの18.3%より大幅に良好)

**ROE(自己資本利益率)の特徴**:

  • **低水準**:2024年の5.5%は業界平均を下回る
  • **2019年の異常値**:-22.0%は巨額の減損損失による
  • **改善余地**:収益性の向上が今後の課題
  • **安定化傾向**:2020年以降は黒字を維持

総合評価

クラフト・ハインツの財務戦略は**「守りを固めた再建型経営」**と評価できます。2019年の危機を経て、負債削減と資産効率化を進め、財務健全性は大幅に改善しました。自己資本率55.9%は食品業界として健全な水準であり、現在の配当は十分に維持可能です。ただし、ROEの低さは事業の収益力改善が必要であることを示しています。

配当重視投資家にとっての投資価値

インカム投資家への魅力と課題:

  1. **高配当利回り**:5.86%という魅力的な利回り水準
  2. **配当の安定性**:2019年以降、$1.60で安定維持
  3. **財務健全性の改善**:自己資本率の着実な向上
  4. **成長性の欠如**:配当成長が停止している点は大きな課題

配当投資戦略における位置づけ

高利回り・リスク銘柄として

  • **インカム重視型**:高い配当利回りを求める投資家向け
  • **リスク許容度必要**:配当成長の不確実性を受け入れられる投資家
  • **分散投資の一部**:ポートフォリオの高利回り部分として少量保有
  • **短中期投資**:長期的な配当成長は期待しにくい

投資リスクと対策

主要リスク要因:

  1. **ブランド力の低下**:消費者の嗜好変化への対応遅れ
  2. **売上高の減少傾向**:オーガニック成長の欠如
  3. **競争激化**:プライベートブランドの台頭
  4. **再度の減配リスク**:業績悪化時の配当削減可能性
  5. **成長投資の不足**:高い配当性向が成長投資を制約

リスク軽減策:

  • **少額投資**:ポートフォリオの5%以下に制限
  • **定期的な業績確認**:四半期決算での改善状況モニタリング
  • **損切りライン設定**:配当削減発表時の即座の売却
  • **他の配当株との組み合わせ**:配当成長株でリスクヘッジ
  • **再投資の慎重な検討**:配当は現金受取を推奨

まとめ:配当投資家にとってのクラフト・ハインツ

クラフト・ハインツは、**2019年の36%減配という痛みを経て再建途上にある企業**です。現在の5.86%という高配当利回りは魅力的ですが、配当成長の停止と事業の成長性欠如は大きな懸念材料です。

財務健全性は着実に改善しており、現在の配当水準は維持可能ですが、将来の増配は期待しにくい状況です。強力なブランドポートフォリオを持ちながら、消費者嗜好の変化への対応に苦戦しており、長期的な成長戦略の確立が急務です。

投資判断のポイント

配当投資家にとって、クラフト・ハインツは**「高利回りだがリスクを伴う再建銘柄」**として位置づけられます。高い配当利回りを求める投資家には魅力的ですが、配当成長を重視する投資家や、安定性を求める保守的な投資家には不向きです。投資する場合は、ポートフォリオの一部に留め、業績動向を注視しながら機動的に対応することが重要です。

**免責事項**
本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。

Posted by 南 一矢