KHC:クラフトハインツの配当推移
クラフト・ハインツ(KHC)配当分析
2019年大幅減配からの再生への道
クラフト・ハインツ(The Kraft Heinz Company)は、2019年に36%の大幅減配を実施し、配当貴族の地位を失いましたが、その後も年間$1.60(四半期$0.40)の配当水準を維持する高配当銘柄です。[1] 本記事では、再建プロセスと現在の配当政策を、会社IRやSEC提出資料などの一次情報を中心に最新データで検証します。
まず、配当利回りと株価をチャート(直近約90日間)で見てみましょう(本稿執筆時点:2025年11月)。
配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート
(この株価データはグーグルファイナンス関数から取得。直近の配当関連情報はStockprice.com等の二次情報で補完)
データソースの制約について
重要な注意事項:MacroTrends.comでは、年次の詳細な配当データ(配当利回り、配当成長率、配当性向の年次推移)が表形式で直接提供されていません。四半期配当や最新利回りは確認できますが、年次の配当成長の通期系列は不足しています。
クラフト・ハインツは2015年の合併後、2019年の大幅減配など特殊要因が多いため、配当実績は会社IRや複数の配当専門サイトも併用し整合性を確認しています。
年間EPS・平均株価・配当データ分析
EPSに基づく配当支払能力の分析
2019年の巨額減損でEPSは-$10.30まで落ち込みましたが、その後は再建が進み、2024年通期EPSは$2.26まで回復しました。[2] 2025年Q1決算(2025年3月29日終了四半期)では売上高約$6.0B(前年同期$6.4B)、純利益$714M(同$804M)、希薄化EPSは$0.59(同$0.66)と、売上・利益とも前年を下回るスタートとなっています。[3] 赤字期に伴う2019年の年間配当36%削減($2.50→$1.60)は財務健全性を優先した妥当な判断であり、現在は黒字と安定したキャッシュ創出により、据置配当の維持余力が確認できます。
配当成長の実績(複数ソース統合分析)
年平均の配当利回り/配当成長率/配当性向/年間配当($)の推移(IRおよび配当専門サイトの整合確認に基づく長期系列データ)。[2]
| 年 | 配当データ* | 平均株価** | 年EPS** | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 平均利回り | 成長率 | 配当性向 | 年間配当 | |||
| 2024 | 5.86% | 0% | 71% | 1.60 | 27.31 | 2.26 |
| 2023 | 4.78% | 0% | 69% | 1.60 | 33.42 | 2.31 |
| 2022 | 4.22% | 0% | 84% | 1.60 | 37.89 | 1.91 |
| 2021 | 3.99% | 0% | 195% | 1.60 | 40.12 | 0.82 |
| 2020 | 5.25% | 0% | 552% | 1.60 | 30.45 | 0.29 |
| 2019 | 5.03% | -36% | N/A | 1.60 | 31.78 | -10.30 |
| 2018 | 4.45% | 0% | 31% | 2.50 | 56.23 | 8.03 |
| 2017 | 3.03% | 2% | 28% | 2.50 | 82.45 | 8.91 |
| 2016 | 2.98% | 5% | 86% | 2.45 | 82.12 | 2.84 |
| 2015 | 3.17% | 7% | 127% | 2.33 | 73.45 | 1.84 |
| 2014 | 3.85% | 10% | N/A | 2.18 | 56.78 | -0.30 |
| 2013 | 4.34% | 9% | 53% | 1.98 | 45.67 | 3.73 |
| 2012 | 4.72% | – | 297% | 1.82 | 38.45 | 0.61 |
* 配当データは複数の投資情報サイトと会社IR開示の整合確認に基づく(2019年の減配幅を含む)。
** EPSと平均株価はMacroTrends.com等の長期系列データをもとに算出。
配当政策の転換と現状
2019年に年間配当を$2.50→$1.60(-36%)へ削減。その後は据置を継続しています。直近でも取締役会は2025年7月支払分の四半期配当$0.40を承認しており、2025年Q3時点でも同水準が維持されています。[7] 現行水準の継続が示されている一方で、増配再開には利益成長の加速が前提となります。
財務パフォーマンスと成長見通し
主要財務指標の推移
以下の表では、売上高、営業CF、純利益をM$(百万ドル)単位、営業CFマージンを%単位で表示しています(2012〜2024年通期)。[4]
| 年度 | 売上高 (M$) | 営業CF (M$) | 同マージン (%) | 純利益 (M$) |
|---|---|---|---|---|
| 2024 | 25,846 | 4,184 | 16.2 | 2,744 |
| 2023 | 26,640 | 3,976 | 14.9 | 2,855 |
| 2022 | 26,485 | 2,469 | 9.3 | 2,363 |
| 2021 | 26,042 | 5,364 | 20.6 | 1,012 |
| 2020 | 26,185 | 5,560 | 21.2 | 356 |
| 2019 | 24,977 | 3,914 | 15.7 | -12,629 |
| 2018 | 26,268 | 4,302 | 16.4 | 10,192 |
| 2017 | 26,076 | 2,803 | 10.7 | 10,999 |
| 2016 | 26,487 | 3,672 | 13.9 | 3,632 |
| 2015 | 18,338 | 3,070 | 16.7 | 2,281 |
| 2014 | 10,922 | 1,540 | 14.1 | -340 |
| 2013 | 11,441 | 1,715 | 15.0 | 4,154 |
| 2012 | 11,854 | 1,800 | 15.2 | 682 |
直近決算(2025年Q3)のポイント
2025年Q3業績の概要
2025年9月27日終了の第3四半期は、売上高が$6.24B(正確には$6,237M)と前年同期比-2.3%、オーガニック売上高は-2.5%でした。価格は+1.0ポイントとプラスを維持する一方、ボリューム・ミックスの減少が響いています。純利益(普通株主帰属)は$615Mとなり、前年同期の赤字(-$290M)から黒字に転換しました。希薄化EPSは$0.52と、前年同期の-$0.24から大きく改善しています。9カ月累計の売上高は$18.6Bと前年同期比-3.5%で、売上はやや逆風ながら利益水準は持ち直しつつある局面です。[6]
配当支払能力の分析
フリーキャッシュフローによる配当カバー分析
2024年通期の営業CFは$4.18B、フリーCFは約$3.2B。年間配当総額(約$1.93B)に対してカバー比率は約1.6倍で、現行配当は十分に維持可能な水準と考えられます。[4]
配当支払余力の推移(2015年以降)
以下の表では、フリーCF、年間配当支払額をM$(百万ドル)単位、配当カバー比率を倍数で表示しています(2015〜2024年)。[4]
| 年度 | フリーCF (M$) | 年間配当支払額 (M$) | 配当カバー比率 |
|---|---|---|---|
| 2024 | 3,160 | 1,931 | 1.6 |
| 2023 | 2,963 | 1,965 | 1.5 |
| 2022 | 1,553 | 1,960 | 0.8 |
| 2021 | 4,459 | 1,959 | 2.3 |
| 2020 | 4,459 | 1,956 | 2.3 |
| 2019 | 2,813 | 1,953 | 1.4 |
| 2018 | 3,201 | 3,071 | 1.0 |
| 2017 | 1,702 | 3,042 | 0.6 |
| 2016 | 2,571 | 2,985 | 0.9 |
| 2015 | 2,420 | 2,845 | 0.9 |
配当支払余力の分析結果:
- 改善傾向:2022年の0.8倍→2024年は1.6倍へ大幅改善
- 減配の効果:2019年の減配で過度な負担が解消
- キャッシュ創出力:コスト最適化とブランド再編で営業CFが持ち直し
- スタンス:現行配当は維持余力あり。ただし増配余地は限定的
バランスシート分析と財務健全性評価
以下の表では、総資産、総負債、株主資本をM$(百万ドル)単位、自己資本率およびROEを%単位で表示しています(2015〜2024年)。[5]
| 年度 | 総資産 (M$) | 総負債 (M$) | 株主資本 (M$) | 自己資本率 (%) | ROE (%) | 負債比率 (%) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2024 | 88,287 | 38,968 | 49,319 | 55.9 | 5.5 | 79 |
| 2023 | 90,339 | 40,651 | 49,688 | 55.0 | 5.8 | 82 |
| 2022 | 90,513 | 41,683 | 48,830 | 53.9 | 4.9 | 85 |
| 2021 | 93,394 | 43,946 | 49,448 | 53.0 | 2.1 | 89 |
| 2020 | 99,830 | 49,587 | 50,243 | 50.3 | 0.7 | 99 |
| 2019 | 103,261 | 49,701 | 53,560 | 51.9 | -22.0 | 93 |
| 2018 | 103,461 | 51,690 | 51,771 | 50.0 | 19.8 | 100 |
| 2017 | 120,225 | 55,591 | 64,634 | 53.8 | 18.6 | 86 |
| 2016 | 120,708 | 64,482 | 56,226 | 46.6 | 6.8 | 115 |
| 2015 | 122,973 | 66,715 | 56,258 | 45.7 | 4.1 | 119 |
バランスシート分析の重要な観点
自己資本率の推移と意味:
- 改善傾向:2015年45.7%→2024年55.9%へ改善し、財務耐性は高水準
- 負債コントロール:総負債はピーク時から縮小しレバレッジ低下
- 業界比較:食品大手の中でも自己資本比率は相対的に高め
ROE(自己資本利益率)の特徴:
- 回復過程:2019年の減損によるマイナスから、2020年代は一桁台後半まで回復
- 課題:資本効率はなお改善余地あり(利益成長の持続性が鍵)
総合評価
クラフト・ハインツの財務戦略は「守りを固めた再建型」。自己資本率は50%超で安定し、2024年のフリーCF約$3.2Bが据置配当の原資を十分に賄います。一方で、配当成長の再開には収益力の持続的改善が必要です。2025年Q3時点では売上高が前年割れながら、前年度の減損影響が一巡したことで利益は大きく改善しており、配当維持に必要なキャッシュ創出力は確保されつつも、成長期待には引き続き慎重さが求められます。
配当重視投資家にとっての投資価値
インカム投資家への魅力と課題:
- 高配当利回り:平均株価ベースで5%台後半の利回り(年$1.60)
- 配当の安定性:FCFカバー1.6倍で維持余力
- 財務健全性:自己資本率の改善と負債抑制
- 課題:配当成長は停止中で、増配には利益成長の加速が前提
配当投資戦略における位置づけ
高利回り・再建フェーズ銘柄として
- インカム重視向け:安定利回り確保のポジションとして少量の組み入れ
- モニタリング必須:四半期ごとの利益動向・価格戦略を注視
- 分散の一部:配当成長株と組み合わせて全体の増配力を担保
- 再投資は慎重に:増配再開までは現金受取も一案
投資リスクと対策
主要リスク要因:
- ブランド力の相対低下:PB台頭・価格志向の強まり
- 売上の伸び悩み:値下げ・販促強化の必要性
- 競争激化:大手同業との棚取り・広告競争
- 再減配リスク:業績悪化時に配当見直しの可能性
- 成長投資の不足:高配当維持が投資余地を狭める懸念
リスク軽減策:
- ポジション小型化:ポートフォリオの5%以内に留める
- 決算チェック:売上・粗利と販促費のバランスを定点観測
- ルール化:配当政策に変更の兆しが出たら迅速に見直し
- 分散:配当成長銘柄との併用で全体の増配力を確保
- 現金配当活用:DRIPは増配再開後まで慎重に
まとめ:配当投資家にとってのクラフト・ハインツ
2019年の36%減配を境に再建を進め、2024年はFCF約$3.2Bで配当維持余力を確認。高利回りを享受できる一方、配当成長は停止中で、増配復帰は収益性の底上げが条件です。2025年Q3時点では売上面に慎重さが残るものの、前年度の減損の反動もあり利益は大きく改善しており、「減配リスクをある程度織り込んだうえでインカムを取りに行く銘柄」と位置づけられます。インカム狙いの分散パーツとしては有力ですが、積極的な長期増配株とは位置づけが異なります。
投資判断のポイント
本銘柄は「高利回り・再建フェーズ」。据置配当を前提にインカムを確保しつつ、値下げ戦略やブランド再活性、2025年以降の利益成長が実際に進むかどうかを見極める——この二段構えが現実的です。
本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。
ミニ解説:この記事の使い方
本文では2012〜2024年の年次データに加え、2025年Q1・Q3決算までの情報を反映しています。長期表は「この企業がどの程度のキャッシュを生み、そのうちどの程度を配当に回してきたか」を俯瞰するためのもので、直近四半期の動きはハイライト部分でフォローしています。高配当銘柄としての魅力と、成長余地やリスクのバランスを見るときの参考にしてください。
【注】(出典リンク)
- 2019年の配当36%削減($2.50→$1.60)および当時のEPS・純損失の確認 → Kraft Heinz IR – Financial Information(年次報告書・10-K等) → VettaFi – Kraft Heinz’s Dividend Cut(確認日:2025-11-24) ↩
- 年間配当額・配当利回り・配当性向・EPS・平均株価(2012〜2024年)の年次データ → Kraft Heinz IR – Financial Information → Macrotrends – KHC長期財務系列(確認日:2025-11-24) ↩
- 2025年Q1決算(2025年3月29日終了四半期)の売上高$5,999M、純利益$714M、希薄化EPS$0.59など → SEC Form 10-Q – The Kraft Heinz Company(Q1 2025)(確認日:2025-11-24) ↩
- 売上高・営業CF・純利益・フリーCF(2012〜2024年)および2024年通期の営業CF$4.18B/FCF約$3.2B・配当カバー約1.6倍 → PR Newswire – The Kraft Heinz Company Reports Fourth Quarter and Full Year 2024 Results → Kraft Heinz IR – Financial Information(確認日:2025-11-24) ↩
- バランスシート主要項目(総資産・総負債・株主資本・自己資本比率・負債比率など、2015〜2024年) → Kraft Heinz IR – Financial Information → Bullfincher – Kraft Heinz Company Financials(確認日:2025-11-24) ↩
- 2025年Q3決算(2025年9月27日終了四半期)のNet sales$6.237B(前年比-2.3%)、Net income attributable to common shareholders$615M、希薄化EPS$0.52、9カ月累計売上高$18.588Bなど → Kraft Heinz Reports Third Quarter 2025 Results; Updates Full Year 2025 Outlook(確認日:2025-11-24) ↩
- 現行配当水準(四半期$0.40、年間$1.60)の継続を示す2025年7月支払分の四半期配当発表 → Kraft Heinz Announces Regular Quarterly Dividend(確認日:2025-11-24) ↩

