BAC:バンクオブアメリカの配当推移

配当






BAC配当の今後 将来性を徹底分析


最終更新日:2025年5月31日 18:00 JST
情報鮮度:記事中の金融データは2024年12月末時点まで、配当データは2025年5月31日時点の最新情報を反映

米国第2位の銀行であるBank of America(BAC)が、長期的に安定して配当を支払い続けられるのかどうかを解説します。

はじめに:この記事でわかること

BACは近年継続的に増配してきました。これからも増配が期待できるのか、以下のポイントで評価します。

  • BACの稼ぐ力:どれだけ利益を出しているか?(特にPPNRと純利息収入、ROEを重視)
  • 株主還元:配当や自社株買いにどれくらい回しているか?
  • 会社の体力:不況が来ても大丈夫か?
  • 他行との比較:他の銀行と比べてどうか?
  • 現状からの判断:配当は安定しているか?

結論:BACの配当は「安定した持続性」があると評価できます。


ざっくりまとめ

  • ここがスゴイ!
    • 2024年に第3四半期から8%増配を実施($0.24→$0.26)
    • 会社体力(CET1比率:2024年末時点で11.9%)は規制要求を大幅に上回る
    • 稼ぐ力(ROE:2024年実績9.0%)は大手銀行として安定的
    • 配当性向約31.1%(2024年実績)と健全で、無理なく配当
  • 現状分析: データから見る限り、配当の持続性は安定している
注意: 本分析は情報提供のみ。投資は自己判断・自己責任で。過去実績は将来を保証しません。

1. BACの「稼ぐ力」:PPNR(貸倒引当前純営業収益)と収益力分析

BACは米国第2位の銀行として、安定した収益基盤を持っています。銀行の配当余力を評価する上で重要なのは、PPNR(Pre-Provision Net Revenue:貸倒引当前純営業収益)純利益の安定性です。

PPNRとは:貸倒引当金控除前の業務純益を示す指標で、銀行の本源的な収益力を測るために重視されます。銀行の営業キャッシュフローは預金やトレーディング資産の変動により振れが大きく、PPNRはより経常的な収益力を示すため、配当原資の評価に適しています。
情報源: International Banker – PPNR Modelling Guide (2015年6月15日)、Bank of America Q4 2024 Earnings Call
純利益・総収入・PPNR推移(単位:B$)
年度 総収入* PPNR推定** 純利益 備考
2015 85.4 N/A 15.9
2016 83.7 N/A 17.9
2017 87.4 N/A 18.2
2018 91.2 N/A 28.1 税制改革効果
2019 91.2 N/A 27.4
2020 85.5 N/A 17.9 COVID-19影響
2021 89.1 約45 32.0 引当金戻入益
2022 115.1 約50 31.0 金利上昇効果
2023 171.9 約68 26.5
2024 192.4 約78 26.7 好調維持

*総収入:MacroTrends – Bank Of America Revenue 2010-2025 (2025年5月時点)
**PPNR推定:総収入から非金利費用を差し引いた推定値。BACは公式PPNR数値を個別開示していないため、業界標準の計算方法を適用
純利益:CNBC – Bank of America Q4 2024 earnings (2025年1月16日)、MacroTrends データ

この表からわかること: BACは2015年以降、着実に事業規模を拡大してきました。2020年のコロナ禍で一時的に収益が減少しましたが、金利上昇局面の2022年以降は収益が大幅に改善しています。2024年の総収入は1924億ドル(出典:MacroTrends, 2025年5月時点)と過去最高を記録し、純利益も267億ドルと安定しています。推定PPNRも約780億ドルと健全な水準で、配当原資としての本源的収益力を示しています。多様な金融サービスにより、景気や金利変動に強い体質を構築できています。


2. 1株当たり利益と会社の稼ぐ力(ROE分析)

1株当たり指標と収益性比率
年度 EPS ROA ROE ROTCE* 備考
2015 $1.31 0.7% 6.4% 約8%
2016 $1.50 0.8% 7.2% 約9%
2017 $1.56 0.8% 7.3% 約9%
2018 $2.61 1.2% 11.0% 約14% 税制改革効果
2019 $2.61 1.2% 11.1% 約14%
2020 $1.87 0.6% 6.7% 約8% COVID-19影響
2021 $3.57 1.1% 12.1% 約15% 引当金戻入益
2022 $3.19 1.0% 10.8% 約13%
2023 $3.08 0.9% 10.5% 約13%
2024 $3.21 0.9% 9.0% 約11% 安定的な収益

データ出典:
EPS: MacroTrends – Bank Of America EPS 2010-2025 (2025年5月時点)
ROE: GuruFocus – Bank of America ROE % (2025年4月22日時点)、WiseSheets.io – BAC ROE Analysis
*ROTCE: BACは公式ROTCE数値を個別開示していないため、業界標準手法による推定値

ROE(自己資本利益率)とROTCEの重要性

ROE(Return on Equity)は、銀行業界で最も重視される収益性指標の一つです。株主が投資した資本に対して、どれだけ効率的に利益を生み出しているかを示します。

ROE = 純利益 ÷ 平均株主資本 × 100

ROTCE(Return on Tangible Common Equity)は、ROEから無形資産(のれん等)を除いた、より実質的な資本効率を示す銀行業界で重視される指標です。

ROTCE = 純利益 ÷ 有形普通株主資本 × 100

ROEの評価基準(銀行業界):

  • 15%以上:非常に優秀(トップクラス)
  • 10-15%:良好(業界平均以上)
  • 8-10%:普通(業界平均程度)
  • 8%未満:改善の余地あり

ROAとの違い:ROA(総資産利益率)は全資産の効率性を示すのに対し、ROEは株主資本の効率性に特化した指標です。

ROA = 純利益 ÷ 総資産 × 100

この表からわかること:
EPS(1株あたり利益)は2024年に$3.21(出典:MacroTrends, 2025年5月時点)となり、2015年の$1.31から約2.5倍に増加しています。ROEは2024年に9.0%(出典:GuruFocus, 2025年4月時点)と、大手銀行として安定した水準を維持しています。
ROTCE(有形普通株主資本利益率)は推定約11%と、ROEよりもやや高い水準で推移しており、実質的な資本効率の高さを示しています。2018年の税制改革効果により一時的に向上し、その後も業界平均程度の健全な収益性を維持しています。


3. 株主還元(配当と自社株買い)

BACは株主還元を重視し、特に配当の安定性にコミットしています。以下の表は、BACが毎年どれくらい配当を出し、自社株買いをしているかを示しています。

2024年配当実績と増配情況

2024年四半期別配当実績
四半期 配当/株 増配率 支払日 情報源
Q1 2024 $0.24 +9.1%* 2024年3月29日 Bank of America公式発表(2024年1月31日)
Q2 2024 $0.24 0.0% 2024年6月28日 Bank of America公式発表(2024年4月)
Q3 2024 $0.26 +8.3% 2024年9月27日 Bank of America公式発表(2024年7月24日)
Q4 2024 $0.26 0.0% 2024年12月27日 Bank of America公式発表(2024年10月)
年間合計 $1.00 +13.6% 上記発表の合計

*前年同期(2023年Q1: $0.22)との比較。
公式発表の詳細:
・2024年6月28日:Fed stress test結果後の増配計画発表
・2024年7月24日:正式な8%増配と250億ドル株式買い戻しプログラム承認
・各四半期の配当宣言:Bank of America Newsroom (newsroom.bankofamerica.com)

配当性向の推移と安定性

配当実績と配当性向(2015-2024年)
年度 配当性向 EPS 配当/株 増配率(%) 備考
2015 9.2% $1.31 $0.12 +100.0 大幅回復
2016 12.0% $1.50 $0.18 +50.0
2017 19.2% $1.56 $0.30 +66.7
2018 23.0% $2.61 $0.60 +100.0 税制改革効果
2019 27.6% $2.61 $0.72 +20.0
2020 38.5% $1.87 $0.72 0.0% COVID-19影響
2021 20.7% $3.57 $0.74 +2.8% 引当金戻入益
2022 25.1% $3.19 $0.80 +8.1%
2023 28.6% $3.08 $0.88 +10.0%
2024 31.1% $3.21 $1.00 +13.6% 8%増配実施

配当性向の計算式:配当性向 = (年間配当/株 ÷ EPS)× 100
データ出典:
EPS: MacroTrends – Bank Of America EPS 2010-2025 (2025年5月時点)
配当/株: Bank of America公式配当発表の累計
2024年配当性向計算: $1.00 ÷ $3.21 = 31.1%
重要な観察点:
・2015年以降、ほぼ毎年着実に増配(9年間で約8倍に増加)
・2020年のCOVID-19期間中も減配なし(稀有な実績)
・配当性向は長期的に20-40%の健全なレンジで推移

この表からわかること:
配当/株は2015年の$0.12から2024年の$1.00まで、9年間で約8倍に増加しています。特に2017年、2018年に大幅な増配を実施し、その後も毎年着実に増配を続けています。2020年のコロナ禍でも減配せず維持したのは、BACの配当へのコミットメントの証です。
配当性向(稼いだ利益のうち配当に回す割合)は2024年で31.1%と健全な水準。長期的に20-40%のレンジで推移しており、利益の大部分を内部留保や再投資に回せるため、今後も配当を増やし続ける体力があることを意味します。

総還元性向と資本配分戦略

総株主還元実績(配当+自社株買い)(単位:B$)
年度 総還元性向 純利益 配当総額 自社株買い 総還元額
2015 約40% 15.9 1.4 4.9 6.3
2016 約45% 17.9 2.0 6.1 8.1
2017 約55% 18.2 3.2 6.8 10.0
2018 約65% 28.1 6.4 12.1 18.5
2019 約75% 27.4 7.5 13.1 20.6
2020 約43% 17.9 7.7 0.0 7.7
2021 約56% 32.0 7.1 10.7 17.8
2022 約58% 31.0 7.8 10.2 18.0
2023 約65% 26.5 8.5 8.6 17.1
2024 約79% 26.7 8.8 12.2 21.0

*2020年:FRB規制により自社株買い停止。2021年から段階的再開。
**推定値を含む:総還元性向は(配当総額+自社株買い)÷純利益で算出
データ出典:
・純利益: MacroTrends, Bank of America公式決算資料
・配当総額: 年間配当×発行済株式数(推定)
・自社株買い: Bank of America各年公式発表、2024年は250億ドルプログラム等
重要な観察点:
・10年平均総還元性向:約58%(健全な水準)
・2020年を除き、毎年50%以上の還元性向を維持
・2024年は過去最高の約79%(積極的な株主還元)

年次別総還元性向の詳細分析

総還元性向の内訳分析(2015-2024年)
年度 配当性向 自社株買い/純利益 総還元性向 配当の安定性 備考
2015 9.2% 30.8% 40.0% 回復期 配当再建期
2016 12.0% 33.0% 45.0% 安定
2017 19.2% 35.8% 55.0% 安定
2018 23.0% 42.0% 65.0% 安定 税制改革効果
2019 27.6% 47.4% 75.0% 安定
2020 38.5% 0.0% 43.0% 維持 COVID-19/減配せず
2021 20.7% 35.3% 56.0% 安定 自社株買い再開
2022 25.1% 32.9% 58.0% 安定
2023 28.6% 36.4% 65.0% 安定
2024 31.1% 47.9% 79.0% 増配 8%増配実施

総還元性向の分析:
・配当性向:安定的に20-40%で推移(無理のない配当水準)
・自社株買い比率:景気や規制環境に応じて柔軟に調整
・総還元性向:長期的に50-80%で推移(株主還元重視の姿勢)
情報源: Bank of America各年決算資料、MacroTrends財務データに基づく計算

この表からわかること:
BACは、配当だけでなく自社株買いも積極的に行っています。2015年以降、総還元性向は約40-80%で推移しており、2024年は約79%と高い水準となっています。配当と自社株買いを合わせた「総還元性向」の推移を見ると、BACが稼いだ利益の大部分を株主に還元していることが分かります。2020年に自社株買いが一時的に制限された時期を除けば、非常に株主還元に積極的な姿勢がうかがえます。

2024年株主還元プログラム詳細
項目 金額・比率 情報源
2024年新規買い戻しプログラム 250億ドル Bank of America公式発表(2024年7月24日)
2024年配当総額(推定) 約88億ドル 配当$1.00×発行済株式数約88億株(推定)
2024年実際の株主還元 210億ドル Bank of America Q4 2024 earnings call
CET1比率(2024年末) 11.9% Bank of America Q4 2024 earnings (CNBC, 2025年1月16日)
規制要求CET1比率 10.7% Bank of America公式発表(2024年6月28日)

2024年7月に新たに250億ドルの株式買い戻しプログラムを承認し、株主還元に積極的な姿勢を示しています。CET1比率11.9%は規制要求10.7%を上回る十分な水準で、株主還元の余力があることを示しています。


4. 会社の体力(健全性)は大丈夫?

指標 2022年 2023年 2024年末 規制要求* 超過幅
CET1比率 11.8% 11.9% 11.9% 10.7% +1.2pp
Tier 1資本比率 13.4% 13.5% 13.5% 12.2% +1.3pp
総資本比率 15.0% 15.1% 15.1% 14.2% +0.9pp
SLR 6.1% 6.2% 5.9% 5.0% +0.9pp
*規制要求は2024年10月時点の数値。
データ出典:
Bank of America Q4 2024 Earnings Call (2025年1月16日)
Federal Reserve Banking System Conditions Report(2024年5月)
Statista – CET1 ratio of largest U.S. banks 2024

5. キャッシュフローと流動性の安定性

指標 2023年 2024年 規制要求 情報源
LCR 113% 113% 100% Bank of America Q4 2024 earnings
NSFR 119% 120.8% 100% Insurance News Net(2025年3月2日)
流動性 $953B $953B Bank of America Q4 2024 earnings call

この表からわかること:
LCR(流動性カバレッジ比率)113%とNSFR(安定調達比率)120.8%は、いずれも規制要求の100%を大きく上回っており、BACが十分な流動性を確保していることが分かります。約9530億ドルの流動性資産を保有し、万が一の時に資金繰りに困らない体制を整えています。


6. 投資家が注意すべきリスク

どんなに優れた企業でもリスクは存在します。BACの場合、以下の点に注意が必要です。

  • 金利変動リスク: 今後、金利が急激に低下すると、純利息収入が減少する可能性があります。ただし、BACは金利感応度の管理体制を整えています。
  • 規制の強化: 今後、銀行に対する規制がさらに厳しくなり、自己資本をもっと積み立てるように求められる可能性があります。
  • 消費者信用リスク: BACは消費者向け貸出が多いため、景気悪化時には信用損失が増加する可能性があります。
  • 競合の激化: フィンテック企業との競争が激しくなっています。
  • 経済環境の変化: 景気後退や市場ボラティリティの上昇は、トレーディング収入や投資銀行業務に影響する可能性があります。

7. 競合他行との比較分析

銀行 配当利回り** 配当性向*** ROE CET1比率 情報源
JPMorgan 2.15% 23.2% 18.0% 15.7% JPMorgan 2024年決算資料
Bank of America 2.35% 31.1% 9.0% 11.9% Bank of America 2024年決算資料****
Wells Fargo 2.67% 31.0% 10.3% 10.3% Wells Fargo 2024年決算資料
Citigroup 3.24% 40.8% 6.1% 13.6% Citigroup 2024年決算資料
**配当利回りは2025年5月時点の株価に基づく推定値
***配当性向は2024年実績に基づく
****Bank of America具体的な決算資料:
・Q4 2024 earnings release (2025年1月16日)
・Q4 2024 earnings call transcript
・投資家向け資料:investor.bankofamerica.com/quarterly-earnings
その他の情報源: Statista – CET1 ratio of largest U.S. banks 2024、各社公式決算発表

この表からわかること:
BACは配当利回り2.35%と主要銀行の中で適度な水準にあり、配当性向31.1%は健全です。ROE 9.0%は大手銀行として安定的な収益性を示し、CET1比率11.9%は規制要求を上回る十分な水準で、継続的な配当支払いと増配の基盤があります。


8. 結論と投資判断

Bank of Americaの配当は、「安定した持続性」があり、保守的な配当投資先として評価できます。

投資判断の根拠

定量的根拠(数字で見る強み):

  • 2024年に8%増配を実施し、年間配当$1.00(前年比+13.6%)
  • 健全な配当性向(2024年実績で31.1%)
  • 安定的な収益性(ROE 2024年実績9.0%)
  • 規制要求を上回る強固な自己資本(CET1比率 11.9%)
  • 米国第2位の銀行としての安定した収益基盤

定性的根拠(数字以外の強み):

  • 米国第2位の銀行としての圧倒的な事業規模と安定性
  • 6900万人の顧客基盤と全米に広がる店舗網
  • 堅実な経営陣による保守的なリスク管理体制
  • デジタル化への積極的な投資による将来競争力の維持

現状データからの見通し

現在の財務体質から判断される配当の持続性:

  • 健全な配当性向(31.1%)により、増配のための余力が十分にある
  • 強固な自己資本比率により、経済ショックにも耐えうる体力がある
  • 安定した収益基盤により、継続的な配当支払いが可能
  • 過去のクライシス(リーマンショック、コロナ禍)でも減配しなかった実績

投資上の留意点:
BACは安定性を重視する配当投資家に適していますが、JPMorgan程の高成長は期待できません。金利環境の変化に敏感であり、金利低下局面では収益が圧迫される可能性があります。規制環境の変化にも注意が必要です。

免責事項

本レポートは、公開情報に基づく分析であり、投資助言を構成するものではありません。投資判断は投資家自身の責任において行ってください。本レポートの作成にあたっては正確性を期していますが、その内容の正確性、完全性を保証するものではありません。

金融商品への投資は元本割れのリスクを伴います。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。為替変動リスク、流動性リスク、信用リスクなど、様々なリスクを十分に理解した上で投資判断を行ってください。

主要な情報源と更新履歴

Bank of America Corporation 公式情報:

第三者金融情報プラットフォーム:

  • MacroTrends.net(収益・EPS履歴データ、2025年5月時点)
  • GuruFocus(ROE分析、2025年4月22日時点)
  • Federal Reserve Banking System Reports(規制データ)
  • Statista(銀行業界比較データ)
  • Insurance News Net(NSFR data、2025年3月2日)

記事更新履歴:

  • 2025年5月31日 18:00 JST: 初回公開
  • 次回更新予定: 2025年7月16日(2025年Q2決算発表後)
  • データ基準日: 2024年12月末(財務データ)、2025年5月31日(配当・市場データ)


Posted by 南 一矢