BLK:ブラックロックの配当推移

配当

ブラックロック(BlackRock Inc)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間配当利回り

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

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配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 2.35% 2% 49% 20.4 867.1 42.01
2023 2.89% 2% 55% 20 692.7 36.51
2022 2.84% 18% 57% 19.52 688.3 33.97
2021 1.95% 14% 43% 16.52 846.1 38.22
2020 2.60% 10% 46% 14.52 558.6 31.85
2019 2.95% 9% 46% 13.2 448.2 28.43
2018 2.45% 21% 45% 12.09 493 26.58
2017 2.36% 9% 33% 10 423.7 30.12
2016 2.62% 5% 48% 9.16 350.1 19.02
2015 2.51% 13% 44% 8.72 347.2 19.79
2014 2.42% 15% 40% 7.72 319.1 19.25
2013 2.49% 12% 40% 6.72 269.7 16.87
2012 3.23% 9% 44% 6 185.5 13.79
2011 3.07% 38% 44% 5.5 179.3 12.37
2010 2.21% 28% 38% 4 181.1 10.55
2009 1.81% 0% 51% 3.12 172.7 6.11
2008 1.67% 16% 54% 3.12 186.5 5.78

【出典】

# ブラックロック(BLK)の財務分析と配当実績

安定成長する配当の実績

ブラックロック(BLK)の配当実績は、世界最大の資産運用会社としての安定した収益基盤を反映し、一貫した成長パターンを示しています。2008年から2024年にかけて、同社の1株当たり配当は$3.12から$20.40へと約6.5倍に増加しました。特筆すべきは、2008年の金融危機や2020年のCOVID-19パンデミックなど、市場が大きく動揺した時期においても、一度も配当を削減することなく、着実な配当成長を維持してきた点です。

配当成長率の推移

ブラックロックの配当成長率は、成長フェーズによって特徴的なパターンを示しています:

  • 2008〜2010年:急速な成長期(0〜28%の成長率)
  • 2011年:高成長期(38%の大幅増配)
  • 2012〜2016年:安定成長期(5〜15%の成長)
  • 2017〜2018年:加速期(9〜21%の成長)
  • 2019〜2021年:安定成長期(9〜14%の成長)
  • 2022年:拡大期(18%の成長)
  • 2023〜2024年:調整期(2%の緩やかな成長)

このパターンは、同社の事業拡大フェーズや市場環境、そして資本配分戦略の変化を反映しています。特に注目すべきは、2011年(38%)と2018年(21%)の大幅な配当増加と、直近の2023-2024年における成長率の鈍化(2%)です。2011年の高成長は2010年のBarclays Global Investors買収による事業規模拡大後の収益性向上を反映し、2018年はアメリカの法人税改革による恩恵が大きかったと考えられます。一方、近年の成長率鈍化は、市場環境の変化に対応した、より保守的な資本配分への移行を示唆しています。

配当利回りの魅力

ブラックロックの配当利回りは、株価の上昇と配当の成長のバランスによって推移してきました。同社の特徴は:

  • 長期的には平均2.0〜2.5%程度の配当利回りを維持
  • 株価の上昇に伴い、配当も着実に増加し、株主に安定したインカム収入を提供
  • S&P500の平均配当利回り(約1.5%)を上回る水準を維持

この配当利回りの水準は、資産運用業界の中では競争力があり、同社の収益の安定性と成長性を反映しています。特に、市場の下落局面では、ブラックロックの配当利回りの魅力が際立つ傾向があります。例えば、2020年のパンデミック初期の市場混乱時には、一時的に3%を超える配当利回りとなり、投資家にとっての安全性と価値を提供しました。

配当性向の持続可能性

配当性向は「1株配当 ÷ EPS」で計算される指標で、ブラックロックの場合、この比率は比較的安定しています。過去17年間(2008-2024年)の配当性向は33%〜58%の範囲で推移しており、極端な上下動は見られません。

安定した配当性向の意義:ブラックロックの配当性向の安定性は、以下のポイントを示唆しています:

  • 収益の予測可能性と安定性:資産運用業の特性として、運用資産残高(AUM)に基づく手数料収入が主な収益源であり、急激な収益変動が少ない
  • バランスの取れた資本配分:成長投資、株主還元、財務強化のバランスを重視する経営方針
  • 長期的な株主価値創造への焦点:短期的な配当最大化よりも、持続可能な株主還元と事業成長の両立

配当性向の変動要因:配当性向の変動は主に以下の要因によるものと考えられます:

  • 2017年の低下(33%):税制改革前の特別利益計上による一時的なEPS増加
  • 2022年の上昇(58%):市場環境悪化による収益減少にもかかわらず、配当を18%増額
  • 2023-2024年の正常化(55%→49%):市場環境改善と収益回復に伴う調整

財務指標との関連性:ブラックロックの場合、純利益の変動は運用資産残高や市場パフォーマンスの影響を受けますが、その変動は石油・ガス企業のような資源価格連動型企業と比較すると遥かに緩やかです。同社の営業キャッシュフローは一貫して安定しており、配当をカバーするのに十分な水準を維持しています。2020年のような市場混乱期でも、営業キャッシュフロー(3,743M$)は配当支払い(約2,260M$)を大きく上回っていました。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、収益、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 収益 営業CF 同マージン 純利益
2008 5,064 1,916 38 784
2009 4,700 1,399 30 875
2010 8,612 2,488 29 2,063
2011 9,081 2,826 31 2,337
2012 9,337 2,240 24 2,458
2013 10,180 3,642 36 2,932
2014 11,081 3,087 28 3,294
2015 11,401 3,004 26 3,345
2016 12,261 2,273 19 3,168
2017 13,600 3,950 29 4,952
2018 14,198 3,075 22 4,305
2019 14,539 2,884 20 4,476
2020 16,205 3,743 23 4,932
2021 19,374 4,944 26 5,901
2022 17,873 4,956 28 5,178
2023 17,859 4,165 23 5,502
2024 20,407 4,956 24 6,369

収益性と効率性の変動

ブラックロックの財務データからは、世界最大の資産運用会社としての強固なビジネスモデルと成長トレンドが見てとれます:

  • 収益は2008年の5,064M$から2024年には20,407M$へと約4倍に成長
  • 2009年の金融危機後の一時的な減収(-7%)を除き、2022-2023年の市場低迷期までほぼ一貫して成長
  • 2010年の大幅な収益増加(+83%)はBarclays Global Investors買収の効果
  • 営業CFマージンは19%〜38%の範囲で推移し、平均約27%の高水準を維持
  • 純利益は2008年の784M$から2024年には6,369M$へと約8倍に増加

特に注目すべきは、市場環境が悪化した2022年においても、営業CFが過去最高の4,956M$を記録し、純利益も5,178M$と高水準を維持した点です。これは、ブラックロックのビジネスモデルが市場変動に対して一定の耐性を持つことを示しています。

2021年から2024年にかけての収益と純利益の推移は、資産運用業界の新たなダイナミクスを反映しています。2021年の過去最高収益(19,374M$)の後、2022-2023年は市場環境悪化による運用資産残高の減少で収益が一時的に低下しましたが、2024年には市場回復と新規資金流入により再び成長軌道に戻り、収益20,407M$、純利益6,369M$と過去最高を更新しています。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 1,916 226 -394 -887
2009 1,399 -27 -5,519 6,749
2010 2,488 78 -627 -3,170
2011 2,826 14 -204 -2,485
2012 2,240 -21 -266 -944
2013 3,642 63 -483 -3,392
2014 3,087 -15 239 -1,861
2015 3,004 -3 -465 -2,064
2016 2,273 -24 -371 -1,685
2017 3,950 74 -608 -2,630
2018 3,075 -22 -808 -2,765
2019 2,884 -6 -2,014 -2,583
2020 3,743 30 -254 244
2021 4,944 32 -1,937 -2,287
2022 4,956 0 -1,130 -5,442
2023 4,165 -16 -959 -1,992
2024 4,956 19 -3,004 2,236

ブラックロックの強みは、安定した高水準のキャッシュフロー生成能力にあります。資産運用ビジネスの特性として、大規模な設備投資を必要とせず、運用資産残高に基づく手数料収入が主な収益源となるため、高いフリーキャッシュフローを実現しています:

  • 営業CFは2016年以降、金融危機後の水準を大きく上回り、2022年と2024年に過去最高の4,956M$を記録
  • 投資CFの変動は主に戦略的買収や技術投資によるもので、2019年(-2,014M$)と2024年(-3,004M$)に大型投資を実施
  • 財務CFは基本的にマイナス(資金流出)が続き、配当支払いと自社株買いを中心とした株主還元を反映

2009年の財務CF大幅増加(6,749M$)は、Barclays Global Investors買収のための資金調達を反映しています。一方、2022年の財務CF大幅マイナス(-5,442M$)は、市場環境悪化にもかかわらず積極的な株主還元を継続したことを示しています。2024年の財務CFプラス転換(2,236M$)は、大型投資(投資CF: -3,004M$)のための資金調達と考えられます。

キャッシュフロー分析のポイント:ブラックロックのキャッシュフローパターンは、「成長投資と株主還元のバランス」を重視する資本配分戦略を反映しています。同社は市場環境の変化に応じて柔軟に資本配分を調整しながらも、配当の着実な成長と自社株買いによる株主還元を一貫して優先しています。この戦略により、市場サイクルを通じた長期的な株主価値の創造を実現しています。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率と負債比率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 19,924 7,364 12,069 61 61
2009 178,124 153,522 24,329 14 631
2010 178,459 152,125 26,094 15 583
2011 179,896 154,534 25,048 14 617
2012 200,451 174,834 25,403 13 688
2013 219,873 193,203 26,460 12 730
2014 239,792 212,272 27,366 11 776
2015 225,261 196,217 28,503 13 688
2016 220,177 190,833 29,098 13 656
2017 220,241 187,977 31,798 14 591
2018 159,573 126,033 32,374 20 389
2019 168,622 133,693 33,547 20 399
2020 176,982 139,326 35,283 20 395
2021 152,648 113,755 38,893 25 292
2022 117,628 78,843 38,785 33 203
2023 123,211 81,971 41,240 33 199
2024 138,615 89,260 49,355 36 181

ブラックロックの資本構成には、特徴的な変遷が見られます:

  • 2008年から2009年にかけての資産・負債の急増はBarclays Global Investors買収を反映
  • 2014年から2022年にかけて総資産が減少する一方、株主資本は着実に増加
  • 自己資本率は2014年の11%から2024年には36%へと大幅に改善
  • 負債比率は同期間に776%から181%へと大きく低下

この資本構成の改善は、ブラックロックの財務戦略の変化を反映しています。2009年のBarclays Global Investors買収後、同社は着実に負債を削減しながら、内部留保を通じて株主資本を強化してきました。特に2018年以降、総資産と総負債の規模を縮小させながらも株主資本を拡大する「質的成長」に力点を置いています。

この結果、2024年には自己資本率36%、負債比率181%と、資産運用業界の中でも良好な財務体質を実現しています。強固な資本基盤は、市場の変動に対する耐性を高めるとともに、戦略的な成長投資と安定した株主還元を両立させる柔軟性をブラックロックに与えています。

流動比率(2020年:145%→2023年:239%→2024年:221%)も良好な水準を維持しており、短期的な資金流動性にも問題がないことを示しています。

まとめ:長期配当投資家にとってのブラックロックとは?

ブラックロックは、世界最大の資産運用会社としての市場支配力と安定したビジネスモデルを背景に、一貫した配当成長と財務健全性を両立させています。同社の収益構造は、運用資産残高(AUM)に連動する手数料収入を基盤としており、市場環境の変動に対しても一定の耐性を持つ特徴があります。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 長期にわたる安定した配当成長記録(2008年から2024年で約6.5倍)
  • 市場混乱期でも配当を維持・増加させた実績(金融危機、COVID-19パンデミック)
  • 適切な範囲(33%〜58%)に維持された配当性向
  • 強力かつ安定したキャッシュフロー生成能力
  • 2014年以降大幅に改善された財務体質(自己資本率と負債比率)
  • ETFやテクノロジーソリューション等の成長分野への戦略的投資
  • パッシブ運用とアクティブ運用、伝統的資産とオルタナティブ資産のバランスの取れた事業ポートフォリオ

一方で、注意すべき点としては:

  • 資産運用業界における手数料率の低下圧力
  • 市場環境悪化時の運用資産残高減少リスク
  • 競争激化によるマーケットシェア維持の課題
  • 規制環境の変化による潜在的なコスト増加
  • ESG投資やデジタル資産など新たな分野への適応力の重要性
  • 直近の配当成長率の鈍化(2023-2024年は2%)

投資家へのポイント:ブラックロックへの投資は、「安定性と成長性のバランス」という特性を持っています。同社は株式市場全体の成長から恩恵を受けるビジネスモデルを持ちながらも、市場のボラティリティに対する一定の耐性を備えています。配当投資家としては、直近の配当成長率鈍化に注意しつつも、長期的な配当成長ポテンシャルを評価すべきでしょう。特に、グローバルな資産運用市場の拡大、ETF市場の成長、テクノロジー活用による効率化など、同社の長期的な成長ドライバーに注目することが重要です。市場環境が悪化する局面では、相対的に安定した収益構造と健全な財務基盤を持つブラックロックの価値が際立つ可能性があります。

よくある質問

ブラックロックの配当はどれくらい安全ですか?

ブラックロックの配当は非常に安全と評価できます。2008年から2024年まで一度も配当を削減することなく、一貫した成長を維持してきた実績があります。配当性向も33%〜58%の適切な範囲内で管理されており、営業キャッシュフローも配当をカバーするのに十分な水準を維持しています。さらに、近年の財務体質強化(自己資本率の向上、負債比率の低下)により、経済環境や市場環境の悪化に対する耐性も高まっています。資産運用ビジネスの特性として、大規模な設備投資を必要とせず、高いフリーキャッシュフローを生み出せることも、配当の安全性を支える重要な要素です。

近年の配当成長率鈍化(2023-2024年は2%)は懸念材料ですか?

配当成長率の鈍化には注意が必要ですが、過度な懸念は不要と考えられます。この鈍化は、2022年の市場環境悪化と収益減少にもかかわらず18%という高い配当増加を実施した後の調整と見ることができます。また、近年ブラックロックは配当と自社株買いを組み合わせた総還元率を重視する傾向にあり、2022年は財務CFが-5,442M$と積極的な株主還元を実施しています。市場環境の改善と収益の回復(2024年は収益14%増、純利益16%増)を考えると、今後の配当成長率が再び上昇する可能性もあります。長期投資家としては、一時的な成長率の変動よりも、持続可能な配当政策と長期的な成長ポテンシャルを評価することが重要です。

資産運用業界の手数料率低下圧力は、ブラックロックの配当能力にどう影響しますか?

資産運用業界全体で手数料率の低下圧力が続いていることは事実ですが、ブラックロックはこの環境にうまく適応しています。同社の強みは、(1)スケールメリットによるコスト効率の高さ、(2)ETFなどの低コスト商品におけるマーケットリーダーシップ、(3)テクノロジープラットフォーム(Aladdin®など)の収益貢献、(4)プライベートマーケットやオルタナティブ投資など高マージン分野への展開—にあります。これらの要素により、全体の手数料率低下を運用資産残高の拡大でカバーし、安定した収益成長を実現しています。実際、2014年から2024年にかけて収益は84%増加し、純利益は93%増加しています。このような収益の質的改善と成長戦略により、手数料率低下圧力下でも配当能力は十分に維持できると考えられます。

ブラックロックの投資戦略は配当にどのような影響を与えますか?

ブラックロックは「オーガニック成長投資」、「戦略的買収」、「株主還元」のバランスを重視した資本配分戦略を採用しています。同社は、長期的な成長基盤を強化するための投資(テクノロジー、新興市場、オルタナティブ資産など)を継続しながらも、安定した配当成長と機動的な自社株買いを通じた株主還元を優先しています。2024年の大型投資(投資CF: -3,004M$)のような戦略的投資は、短期的にはフリーキャッシュフローを圧迫する可能性がありますが、長期的には新たな収益源の創出や競争力強化を通じて配当能力を高める効果が期待できます。同社のこれまでの実績を見ると、投資と株主還元のバランスを取りながら、一貫した配当成長を実現してきており、この方針は今後も継続されると考えられます。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢