DOW:ダウ・インクの配当推移

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ダウ・インク(DOW)配当利回りと株価チャート分析 – 2025年最新版


ダウ・インク(Dow Inc)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

重要なお知らせ(2025年7月更新):ダウ・インクは2025年7月24日に配当を50%削減することを発表しました。四半期配当は$0.70から$0.35へと減額され、年間配当は$2.80から$1.40となりました。これは業界の長期的な低迷と低収益環境の継続に対応するための措置です。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2025 5.7% -50% 1.4 24.5
2024 5.29% 0% 176% 2.8 52.9 1.59
2023 5.23% 0% 341% 2.8 53.5 0.82
2022 5.01% 0% 45% 2.8 55.9 6.28
2021 4.59% 0% 33% 2.8 61 8.38
2020 6.36% 33% 171% 2.8 44 1.64
2019 4.17% -114% 2.1 50.4 -1.84

【出典】

2025年配当削減と新たな配当政策

ダウ・インク(DOW)は2025年7月24日、化学業界の「数十年で最も長期化した低迷サイクル」を理由に、配当を50%削減することを発表しました。四半期配当は$0.70から$0.35へと大幅に減額され、年間配当は$2.80から$1.40となりました。これは分社化後初めての配当削減となり、同社の配当政策における重要な転換点を示しています。

配当削減の背景には、2025年上半期の厳しい業績があります。第1四半期には$290百万の純損失を計上し、第2四半期の売上高は前年同期比7%減の$101億ドルとなりました。CEO のJim Fitterling氏は「低収益環境の長期化」と「マクロ経済状況の困難」を削減理由として挙げ、財務柔軟性の確保と長期的株主価値の最大化を優先する姿勢を示しました。

重要な点として、同社は456回連続の配当支払い記録を維持しており、配当削減後も年利回りは約5.7%と化学セクターとして競争力のある水準を保っています。経営陣は「景気サイクル全体を通じて競争力のある配当の維持」を引き続き目標としており、業界回復時には増配余地があることを示唆しています。

配当成長率の変遷と新局面

DOWの配当成長率は、分社化後の7年間で明確なパターンを示しています:

  • 2019年:分社化に伴い配当開始($2.10)
  • 2020年:積極的な増配(+33%、$2.80)
  • 2021〜2024年:配当据え置き政策(0%成長)
  • 2025年:初の配当削減(-50%、$1.40)

2020年の大幅増配は、分社化直後の保守的設定からの調整でしたが、その後の4年間の据え置きは、COVID-19パンデミック、エネルギー価格変動、世界的なインフレ圧力など、外部環境の不確実性に対する慎重姿勢を反映していました。2025年の50%削減は、これらの一時的要因ではなく、化学業界の構造的な変化と長期的な需給バランスの悪化を受けた、より根本的な戦略転換を示しています。

特に注目すべきは、削減発表前の配当利回りが10%を超える異常な高水準に達していたことです。これは市場が配当の持続可能性に疑問を抱いていたことを示しており、今回の削減は市場の予想に沿った措置とも言えます。削減後の5.7%という利回りは、より持続可能で現実的な水準と評価されています。

配当利回りの再調整と競争力

DOWの配当削減により、配当利回りは約10%から5.7%へと大幅に低下しました。しかし、この水準は化学・素材セクターとして依然競争力があり、持続可能性の観点から評価できます:

  • 適正な利回り水準:過度に高い利回りによる持続性リスクの解消
  • セクター内競争力:化学業界として適切な配当水準の維持
  • 財務柔軟性の確保:業界回復時の投資余力と将来的な増配機会の創出
  • 長期的視点:景気サイクル全体を通じた配当政策の安定化

削減前の10%を超える利回りは、市場が同社の配当持続能力に重大な懸念を抱いていたことを反映していました。実際、2023年の配当性向は341%、2024年も176%と、収益力を大きく上回る配当支払いが続いていました。今回の削減により、これらの不均衡が是正され、より健全な配当政策へと転換したと評価できます。

注目ポイント:DOWの配当削減は短期的にはネガティブな材料ですが、長期的には財務健全性の改善と持続可能な配当政策の確立につながると期待されます。同社は削減により年間約$1.0億ドルの資金を節約し、この資金を設備投資、負債削減、または業界回復時の成長投資に活用できるようになります。

配当性向の正常化と財務健全性

DOWの配当性向は、化学業界特有の収益変動により極めて不安定でしたが、2025年の配当削減により正常化への道筋が示されました。過去の異常な配当性向を振り返ると:

配当性向の改善プロセス

  • 2023年:EPSが$0.82に低下し、配当性向は341%という持続不可能な水準
  • 2024年:EPSが$1.59に回復したものの、配当性向は176%と依然高水準
  • 2025年:配当削減により、配当性向の大幅改善と持続可能性の向上

配当削減後は、現在の収益水準($1.40配当÷想定EPS)でも100%を下回る健全な配当性向の実現が期待されます。これにより、化学業界の景気変動に対する耐性が大幅に向上し、将来の不況期でも配当継続が可能な財務体質を構築できます。

業界サイクルへの対応力強化:化学会社の収益は以下の要因で大きく変動するため、適正な配当性向の維持が重要です:

  • 原材料価格変動:石油・天然ガス価格の急激な変動
  • 需給バランス:世界経済の成長率と化学製品需要の相関
  • 競争環境:新興国メーカーとの価格競争激化
  • 規制対応:環境規制強化による追加コスト負担
  • 技術革新:リサイクル技術やバイオケミカルの台頭

今回の配当削減により、これらの外部要因による収益変動に対しても、配当を維持できる強固な財務基盤が構築されました。同社の営業キャッシュフローは過去10年間で-$49億ドルから+$75億ドルまで激しく変動しており、このような環境下では保守的な配当政策が株主利益の最大化につながります。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2025(上半期) 20,500 1,500 7 -100
2024 42,964 2,914 7 1,116
2023 44,622 5,196 12 589
2022 56,902 7,475 13 4,582
2021 54,968 7,009 13 6,311
2020 38,542 6,226 16 1,225
2019 42,951 5,930 14 -1,359
2018 49,604 4,254 9 4,641
2017 43,730 -4,929 -11 465
2016 48,158 -2,957 -6 4,318
2015 48,778 7,607 16 7,685

2025年業績悪化と構造的課題

DOWの2025年上半期の業績は、化学業界の深刻な低迷を如実に示しています。第1四半期(売上$104億ドル、純損失$290百万)、第2四半期(売上$101億ドル)ともに前年同期を大幅に下回り、年間売上高は$420億ドル程度に留まる見通しです。

特に深刻なのは営業キャッシュフローの急激な悪化です。2022年の$75億ドルから2024年の$29億ドルへと激減し、2025年上半期はさらに低水準で推移しています。営業CFマージンも13%から7%へと大幅に低下し、同社の収益創出能力の著しい悪化を示しています。

この業績悪化の主な要因は:

  • 世界的な化学製品需要の低迷:建設・自動車・包装材業界の同時減速
  • 製品価格の下落:供給過剰と競争激化による価格圧迫
  • 原材料コスト高止まり:エネルギー価格変動によるコスト構造悪化
  • 中国経済減速:最大市場での需要大幅減少
  • 地政学的リスク:貿易摩擦と関税政策の不確実性

CEO のFitterling氏が「数十年で最も長期化した低迷サイクル」と表現するように、今回の業界調整は過去の景気循環とは異なる構造的側面を持っています。新興国での生産能力増強、環境規制強化、代替材料の台頭など、化学業界を取り巻く環境が根本的に変化しており、従来型の景気回復シナリオが困難になっています。

キャッシュフロー圧迫と資本配分見直し

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2025(上半期) 1,500 -1,200 -600
2024 2,914 -44 -2,368 -1,168
2023 5,196 -30 -2,928 -3,115
2022 7,475 7 -2,970 -3,361
2021 7,009 13 -2,914 -6,071
2020 6,226 5 -841 -2,764
2019 5,930 39 -2,192 -4,095
2018 4,254 -186 -2,195 -5,404
2017 -4,929 67 7,518 -3,325
2016 -2,957 -139 5,092 -4,014
2015 7,607 -1,350 -3,132

DOWのキャッシュフローは2024年から2025年にかけて深刻な悪化を示しています。営業CFは2024年の$29億ドルから2025年上半期は年率換算で約$30億ドル程度に留まり、年間配当支払い額(削減前$20億ドル、削減後$10億ドル)に対する余裕度が大幅に縮小しています。

この状況を受けて、同社は積極的な資本配分見直しを実施しています:

  • 設備投資削減:2025年の設備投資を約$10億ドル削減し、$25億ドル程度に圧縮
  • 配当削減:年間$10億ドルの資金節約効果
  • コスト削減:$10億ドル規模のコスト削減プログラムを加速、2025年内に$4億ドルの効果を実現
  • 資産売却:非中核事業の売却による資金調達(インフラ事業の一部売却で$5.4億ドル調達)

特に重要なのは、投資CFの大幅な削減です。通常年間$30億ドル程度の設備投資を$25億ドルに圧縮することで、短期的なキャッシュフロー改善を図っています。ただし、この投資削減が長期的な競争力に与える影響については慎重な監視が必要です。

財務柔軟性の確保策:DOWは現在の困難な環境下で以下の財務戦略を採用しています:

  • 流動性確保:十分な現金残高と未使用信用枠の維持
  • 負債管理:新規借入の抑制と既存債務の段階的削減
  • 変動費構造:固定費削減による損益分岐点の引き下げ
  • 事業効率化:デジタル化投資による生産性向上

これらの施策により、2026年までに累計$60億ドル以上のキャッシュフロー改善効果を見込んでいます。ただし、これらは主に防御的施策であり、根本的な業界回復には時間を要すると予想されます。

負債構造と財務リスク管理

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2025(Q2) 56,800 40,200 16,600 29 242
2024 57,312 39,461 17,851 31 221
2023 57,967 38,859 19,108 33 203
2022 60,603 39,356 21,247 35 185
2021 62,990 44,251 18,739 30 236
2020 61,470 48,465 12,435 20 390
2019 60,524 46,430 13,541 22 343
2018 83,699 50,078 32,483 39 154
2017 79,940 52,931 25,823 32 205
2016 79,511 52,282 25,987 33 201

DOWの資本構成は2025年第2四半期時点で再び悪化傾向を示しています。自己資本率は31%から29%へと低下し、負債比率は221%から242%へと上昇しました。これは業績悪化による株主資本の圧迫と、相対的な負債負担の増加を反映しています。

特に注目すべき点:

  • 株主資本の継続的減少:2022年の$212億ドルから2025年Q2の$166億ドルへと大幅減少
  • 負債水準の高止まり:$400億ドル前後の負債残高が継続
  • 格付けへの影響:ムーディーズがBaa1からBaa2へと格下げ、ネガティブ見通し
  • 金利負担の増加:市場金利上昇局面での借換えコスト増加リスク

現在の負債比率242%は、化学業界としても高い水準であり、以下のリスクを内包しています:

  • 金利上昇リスク:FRBの政策金利変更による支払利息増加
  • 格付け悪化リスク:さらなる業績悪化時の投資適格級からの転落
  • 財務制約リスク:銀行融資条件(コベナンツ)抵触の可能性
  • 資金調達コスト増加:信用スプレッド拡大による借換え負担
  • 配当政策制約:債務返済優先による追加的な配当圧迫

ただし、同社は十分な流動性を確保しており、短期的な資金繰り不安はありません。また、配当削減により年間$10億ドルの資金を節約できるため、負債削減余力は改善されています。長期的には、業界回復とともに段階的な財務健全性改善が期待されますが、それまでは慎重な財務運営が求められます。

まとめ:配当削減後のDOWの投資価値

ダウ・インクは2025年7月の50%配当削減により、大きな転換点を迎えました。短期的には株主にとってネガティブな材料ですが、長期的な視点では財務健全性の改善と持続可能な配当政策の確立につながる重要な戦略転換と評価できます。

配当削減後の同社の強みとリスクを整理すると:

配当削減後の強み:

  • 財務柔軟性の大幅改善:年間$10億ドルの配当負担軽減
  • 持続可能な配当政策:5.7%の適正利回りと健全な配当性向
  • 456回連続配当記録の維持:配当継続への強いコミットメント
  • コスト削減効果:$10億ドルのコスト削減プログラムによる収益性改善
  • 世界最大級の規模:化学業界でのポジションと事業多様性
  • 景気回復時の増配余地:業界正常化時の配当成長機会

注意すべきリスク要因:

  • 業界の構造的変化:需要パターンの恒久的変化可能性
  • 高い負債比率(242%):金利上昇と格付け悪化リスク
  • 収益性の低迷:営業CFマージン7%という低水準
  • 競争環境激化:新興国メーカーとの価格競争
  • 環境規制対応:追加的な投資とコスト負担
  • 技術革新圧力:代替材料とリサイクル技術の台頭
  • 地政学的リスク:貿易政策と関税制度の不確実性

投資家へのポイント:DOWへの投資は「リセットされた配当政策下での長期的価値創造」という新たな局面に入りました。配当削減により短期的な収入は減少しますが、財務安定性は大幅に向上し、景気回復時のアップサイドポテンシャルも確保されています。

特に重要なのは、今回の削減が市場の期待に沿ったものであり、株価には既に織り込み済みと考えられることです。削減前の10%を超える異常な高利回りは、市場が配当の持続可能性に疑問を抱いていたことを示しており、削減により不確実性が解消されました。

現在の5.7%という利回りは、化学セクターとして適正水準であり、業界回復局面では株価上昇と増配の両方を期待できます。ただし、高い負債比率と業界の構造的変化リスクを考慮すると、ポートフォリオの一部として適度な比重での保有が適切と考えられます。化学業界の景気サイクルを理解し、長期的な視点を持つ投資家にとっては、現在の水準は魅力的な投資機会を提供している可能性があります。

よくある質問

DOWの配当削減は今後も続く可能性がありますか?

2025年の50%削減により、DOWの配当政策は持続可能な水準にリセットされました。年間$1.40という配当額は、現在の収益環境下でも比較的安全な水準と評価されます。ただし、化学業界の低迷が想定以上に長期化した場合や、同社の財務状況がさらに悪化した場合には、追加的な削減リスクは完全には排除できません。経営陣は「景気サイクル全体を通じて競争力のある配当の維持」を目標としており、現在の水準を基準とした安定的な配当政策を志向していると考えられます。投資家は営業キャッシュフローと配当性向の推移を継続的に監視することが重要です。

業界回復時にはどの程度の増配が期待できますか?

DOWは過去の好況期(2021-2022年)に$2.80の配当を支払っていたため、業界が正常化すれば段階的な増配余地があります。ただし、今回の削減により同社の配当政策はより保守的になったため、急激な増配よりも段階的な回復が想定されます。業界正常化時のEPSが$4-6の範囲に戻れば、配当性向50-60%を前提として$2.0-3.0程度の配当が理論的には可能です。しかし、高い負債比率や業界の構造的変化を考慮すると、増配ペースは慎重になると予想されます。投資家は短期的な増配期待よりも、配当の安定性と長期的な成長性を重視すべきでしょう。

現在の株価水準($24.50程度)は投資妙味がありますか?

現在の株価は配当削減発表後の調整を反映しており、多くのネガティブ要因が織り込まれています。PERやPBRなどのバリュエーション指標は化学セクターとしては割安水準にあり、長期投資家にとっては魅力的な水準と考えられます。配当利回り5.7%も、削減後としては競争力があります。ただし、業界の低迷が長期化するリスクや、高い負債比率による財務制約を考慮すると、短期的な株価上昇は期待できません。投資判断においては、化学業界の景気回復時期、同社のコスト削減効果、負債削減進捗などを総合的に評価することが重要です。リスク許容度の高い長期投資家にとっては、現在の水準は検討に値する投資機会を提供していると考えられます。

他の化学株と比較したDOWの相対的な魅力度は?

DOWは世界最大級の総合化学メーカーとして、同業他社と比較して以下の特徴があります。競合のLyondellBasell(LYB)やDuPont(DD)と比較すると、事業規模と多様性では優位性がありますが、負債比率の高さは懸念材料です。配当利回りについては、削減後の5.7%でも化学セクター平均を上回る水準を維持しています。同社の強みは、基礎化学品から高付加価値製品まで幅広いポートフォリオを有し、地理的分散も進んでいることです。一方、弱みは高い負債水準と景気敏感性の高さです。投資判断においては、同社が「純粋な化学会社」として分社化された経緯を踏まえ、化学業界全体への投資として位置づけることが適切です。ポートフォリオ分散の観点から、他の化学株との組み合わせや、化学セクター全体の比重を慎重に検討すべきでしょう。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】


Posted by 南 一矢