DOW:ダウ・インクの配当推移

配当

ダウ・インク(Dow Inc)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

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配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 5.29% 0% 2.8 52.9
2023 5.23% 0% 341% 2.8 53.5 0.82
2022 5.01% 0% 45% 2.8 55.9 6.28
2021 4.59% 0% 33% 2.8 61 8.38
2020 6.36% 33% 171% 2.8 44 1.64
2019 4.17% -114% 2.1 50.4 -1.84

【出典】

分社化後の配当政策確立

ダウ・インク(DOW)の配当実績は、2019年のダウデュポンからの分社化を起点とした短期間ながら、化学業界特有の景気循環性と企業戦略の転換を反映した変動を示しています。分社化直後の2019年に2.10ドルで配当を開始し、2020年には33%増の2.80ドルへと大幅に増配しました。しかし、その後は2021年から2024年まで4年連続で2.80ドルを維持し、配当据え置き政策を採用しています。この保守的な配当政策は、新生独立企業としての財務安定性確保と、化学業界の景気循環性に対する備えを重視した結果と考えられます。

配当成長率の推移

DOWの配当成長率は、分社化後の短期間でも明確なパターンを示しています:

  • 2015〜2018年:分社化前のため配当なし
  • 2019年:分社化に伴い配当開始(2.10ドル)
  • 2020年:積極的な増配(+33%、2.80ドル)
  • 2021〜2024年:配当据え置き政策(0%成長)

2020年の大幅増配は、分社化直後の保守的な配当設定から、より適切な水準への調整と解釈できます。その後の4年間の据え置きは、COVID-19パンデミック、エネルギー価格高騰、インフレ圧力など、外部環境の不確実性に対する慎重な姿勢を反映しています。化学業界は原材料価格変動や需要変動の影響を大きく受けるため、安定した配当政策は株主にとって予測可能性を提供しています。

配当利回りの魅力

DOWの配当利回りは、化学・素材セクターとして魅力的な水準を維持しています。2024年時点での利回りは約5〜6%前後と推定され、株価水準に応じて変動するものの、一般的に高配当株としての魅力を有しています。特に注目すべき点は:

  • 高い利回り水準:化学セクターとして競争力のある配当利回り
  • 安定した配当額:2020年以降の据え置き政策による予測可能性
  • 景気循環への対応:化学業界の特性を考慮した持続可能な水準設定

DOWの高い配当利回りは、化学業界の景気循環性と市場の将来収益に対する不確実性を反映している側面があります。しかし、同社が世界最大級の化学メーカーとして多様な製品ポートフォリオを有し、必需性の高い基礎化学品から高付加価値製品まで幅広くカバーしていることを考慮すると、適切なリスクプレミアムを織り込んだ利回り水準と評価できます。

注目ポイント:DOWは分社化により「純粋な化学会社」として生まれ変わり、配当政策も化学業界の特性に適した保守的なアプローチを採用しています。同社は配当額の安定性を重視し、景気変動に対する耐性を高める戦略を採用しています。これにより、化学業界特有の収益変動に対しても配当継続能力を維持することを目指しています。

配当性向の持続可能性

DOWの配当性向は、化学業界特有の収益変動により極めて変動的で、解釈には注意が必要です。特に2019年(-114%)、2020年(171%)、2023年(341%)などで異常な数値を記録していますが、これは主にEPSの大幅変動による計算上の結果です。

極端な配当性向の理解:特に注目すべき年度の配当性向変動は以下のとおりです:

  • 2019年:分社化初年度でEPSが-1.84ドルとマイナスとなり、配当性向は-114%という数値になりました。これは分社化に伴う一時費用や資産評価損の影響と考えられます。
  • 2023年:EPSが0.82ドルまで低下したため、2.80ドルの配当に対して341%という高い配当性向となりました。これは化学製品の需要減少と原材料コストの高騰による収益性低下が要因です。
  • 2021年:EPSが8.38ドルと高水準を記録し、配当性向は33%という健全な水準となりました。これは化学製品の需要回復とエネルギー価格上昇による恩恵を反映しています。

化学企業の収益変動要因:化学会社の純利益は以下の理由で大きく変動します:

  • 原材料価格変動:石油・天然ガス価格の変動による原料コストの影響
  • 需要サイクル:建設、自動車、包装材などの下流産業の景気変動
  • 設備稼働率:需給バランスの変化による工場稼働率と利益率の変動
  • 為替変動:グローバル企業として各国通貨変動の影響
  • 環境規制対応:化学物質規制強化に伴う設備投資や操業コスト増加

これらの一時的な要因が純利益を大きく変動させるため、配当性向だけでは配当の持続可能性を正確に評価することは困難です。DOWの場合、営業キャッシュフローは配当性向が極端に高い年でも、配当支払いをカバーするのに十分な水準を概ね維持しており、基本的な事業からのキャッシュ創出能力は配当を支える基盤となっています。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2015 48,778 7,607 16 7,685
2016 48,158 -2,957 -6 4,318
2017 43,730 -4,929 -11 465
2018 49,604 4,254 9 4,641
2019 42,951 5,930 14 -1,359
2020 38,542 6,226 16 1,225
2021 54,968 7,009 13 6,311
2022 56,902 7,475 13 4,582
2023 44,622 5,196 12 589
2024 42,964 2,914 7 1,116

収益性と効率性の変動

DOWの財務データからは、化学産業特有の高い景気循環性と外部環境の影響を強く受ける特性が顕著に現れています:

  • 売上高は2015年の487億ドルから2022年の569億ドルまで変動し、その後2024年には430億ドルへと減少
  • 営業CFマージンは-11%から16%まで大きく変動し、直近2024年は7%まで低下
  • 純利益は極めて変動が大きく、2019年のマイナス14億ドルから2021年の63億ドルまで激しく変動
  • 2021-2022年の高収益期は、パンデミック後の需要回復とエネルギー価格高騰による恩恵

特に注目すべきは、2016-2017年の営業CFマイナス期間と、2021-2022年のピーク期間です。前者は世界経済減速と化学製品需要低迷、後者はパンデミック後の需要急回復とサプライチェーン混乱による価格上昇の恩恵を受けた結果です。2023年以降の収益性低下は、世界経済の正常化と化学製品市況の調整を反映しています。

変動するキャッシュフロー

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2015 7,607 -1,350 -3,132
2016 -2,957 -139 5,092 -4,014
2017 -4,929 67 7,518 -3,325
2018 4,254 -186 -2,195 -5,404
2019 5,930 39 -2,192 -4,095
2020 6,226 5 -841 -2,764
2021 7,009 13 -2,914 -6,071
2022 7,475 7 -2,970 -3,361
2023 5,196 -30 -2,928 -3,115
2024 2,914 -44 -2,368 -1,168

DOWのキャッシュフローパターンは、化学業界の高い景気循環性を明確に反映しています。営業キャッシュフローは-49億ドル(2017年)から+75億ドル(2022年)まで激しく変動しています:

  • 2016-2017年の営業CFマイナスは、世界的な化学製品需要低迷と価格下落の影響
  • 2018年以降の回復は、世界経済成長と化学製品需要の正常化
  • 2021-2022年のピーク期は、パンデミック後の需要急回復とインフレによる価格上昇
  • 2023-2024年の減少は、需給バランス正常化と競争激化による価格・マージン圧迫

投資CFを見ると、2016-2017年に大幅なプラスを記録していますが、これは非中核事業の売却によるものと考えられます。2018年以降は年間20〜30億ドル程度の設備投資・研究開発投資を継続しており、化学会社として必要な投資水準を維持しています。

財務CFは継続的にマイナスで推移しており、配当支払い、自社株買い、負債返済に充当されています。特に2021年の大幅なマイナス(-61億ドル)は、好業績期における積極的な株主還元と負債削減を反映しています。

キャッシュフロー分析のポイント:DOWのキャッシュフローは化学業界の典型的な「ブーム・バスト」サイクルを示しています。好況期には強力なキャッシュ創出と積極的な株主還元、不況期には投資削減と財務保守化というパターンを繰り返しています。2024年の営業CF大幅減少は、現在のサイクルが調整期にあることを示唆しています。

高い負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2016 79,511 52,282 25,987 33 201
2017 79,940 52,931 25,823 32 205
2018 83,699 50,078 32,483 39 154
2019 60,524 46,430 13,541 22 343
2020 61,470 48,465 12,435 20 390
2021 62,990 44,251 18,739 30 236
2022 60,603 39,356 21,247 35 185
2023 57,967 38,859 19,108 33 203
2024 57,312 39,461 17,851 31 221

DOWの資本構成には、分社化と化学業界特有の特徴が顕著に現れています:

  • 自己資本率は20〜39%の範囲で推移し、2019-2020年に最低水準を記録
  • 負債比率は154〜390%と極めて高い水準で変動
  • 2019年の分社化により総資産が大幅に減少(837億ドルから605億ドルへ)
  • 株主資本は2019-2020年に大幅に圧縮され、その後徐々に回復

資本構成の変化には、以下の要因が影響していると考えられます:

  • 2019年:ダウデュポンからの分社化に伴う資産・負債の再配分と一時的な財務圧迫
  • 2020年:COVID-19パンデミックによる業績悪化と財務体質の一時的な悪化
  • 2021-2022年:好業績期における負債削減と株主資本の回復
  • 2023-2024年:市況悪化による業績低迷と財務指標の再悪化

DOWの負債比率が極めて高い水準にあることは重要な懸念材料です。化学業界は資本集約的で設備投資需要が大きく、また景気循環性が高いため、高い負債水準は財務リスクを高める要因となります。ただし、同社は2021-2022年の好業績期に積極的な負債削減を進めており、財務健全性の改善に継続的に取り組んでいます。

まとめ:長期配当投資家にとってのDOWとは?

ダウ・インクは、世界最大級の化学メーカーとして、分社化後の新生企業から配当を重視する企業へと着実に成長を遂げています。基礎化学品から高付加価値スペシャリティケミカルまで幅広い製品ポートフォリオを有し、グローバルな製造・販売ネットワークを通じて多様な産業にサービスを提供しています。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 世界最大級の化学メーカーとしての規模とシェア
  • 多様な製品ポートフォリオによるリスク分散
  • 分社化後の配当政策確立と着実な株主還元
  • 高い配当利回り(5〜6%程度)
  • 必需品である基礎化学品の安定需要
  • 新興市場での成長機会
  • 持続可能性への取り組みと次世代技術への投資

一方で、注意すべき点としては:

  • 極めて高い景気循環性と収益変動
  • 高い負債比率(154〜390%)による財務リスク
  • 原材料価格変動リスク:石油・天然ガス価格の影響
  • 環境規制強化リスク:化学物質規制の厳格化
  • 競争激化リスク:新興国メーカーとの価格競争
  • 技術変革リスク:バイオケミカルやリサイクル技術の台頭
  • 需要変動リスク:下流産業(自動車、建設等)の景気変動
  • 地政学的リスク:貿易摩擦や関税政策の影響

投資家へのポイント:DOWへの投資は、「高配当と高ボラティリティ」の特性を持っています。同社は化学業界の景気循環性により収益が大きく変動するため、配当投資家としては景気サイクルを理解した長期的な視点が重要です。好況期には高い配当利回りと株価上昇の恩恵を受けられる一方、不況期には配当削減リスクと株価下落リスクがあります。現在の配当据え置き政策は保守的ですが、将来の景気回復時には増配余地があると考えられます。ただし、高い負債比率は常に注意が必要で、財務健全性の推移を継続的に監視することが重要です。化学業界への理解と忍耐力を持つ投資家にとっては、長期的な配当収入とキャピタルゲインの両方を期待できる投資機会と評価できます。

よくある質問

DOWの配当はどれくらい安全ですか?

DOWの配当安全性は、化学業界の景気循環性を考慮すると中程度のリスクがあると評価せざるを得ません。分社化後の短期間ながら、2020年以降配当を2.80ドルで維持しており、配当継続への意志は示しています。しかし、営業キャッシュフローが2024年に29億ドルまで減少し、年間配当支払い額(約20億ドル)に対する余裕度が縮小している点は懸念材料です。化学業界は原材料価格や需要の変動により収益が大きく変動するため、景気後退期には配当削減リスクがあります。ただし、同社の多様な製品ポートフォリオと世界最大級の規模により、一定の安定性は確保されていると考えられます。

高い負債比率はDOWの配当にどのような影響を与えますか?

DOWの負債比率は154〜390%と極めて高い水準で推移しており、これは配当政策に重要な制約要因となる可能性があります。高い負債水準は以下のリスクをもたらします:(1)金利上昇時の支払利息増加による収益圧迫、(2)景気後退期における財務制約の強化、(3)債務償還優先による配当削減圧力、(4)格付け悪化による資金調達コスト上昇。実際に、同社は2021-2022年の好業績期に積極的な負債削減を進めましたが、2024年には再び負債比率が上昇しています。景気サイクルの底では、配当よりも財務健全性の確保が優先される可能性が高く、投資家は負債水準の推移を継続的に監視する必要があります。現在の配当水準の維持には、ある程度の業績回復が前提となります。

化学業界の環境規制強化はDOWにどのような影響を与えますか?

環境規制の強化は、DOWのような大手化学メーカーにとって重要な事業環境変化です。短期的には、(1)新たな環境基準への適合コスト増加、(2)製造プロセスの変更に伴う設備投資、(3)一部製品の製造・販売制限による売上減少、などのマイナス影響が予想されます。しかし、長期的には同社の技術力と規模がむしろ競争優位となる可能性があります:(1)環境対応技術への先行投資による差別化、(2)規制対応コストを負担できない中小競合の淘汰、(3)リサイクル材料や生分解性プラスチックなど新製品での成長機会。DOWは持続可能性を重要戦略として掲げており、環境規制を事業機会として活用する取り組みを進めています。ただし、移行期間中は追加コストによる収益性への圧迫が配当政策に影響する可能性があります。

原材料価格の変動はDOWの業績と配当にどう影響しますか?

DOWの業績は原材料価格、特に石油・天然ガス価格の変動に大きく影響されます。化学製品の多くは石油・天然ガスを原料とするため、これらの価格上昇は直接的に原価増加をもたらします。ただし、影響は複雑で:(1)原料価格上昇時は原価増加する一方、製品価格も連動して上昇する傾向、(2)価格転嫁のタイムラグにより短期的には収益性が悪化、(3)需給バランスにより価格転嫁の成否が左右される、といった特性があります。2021-2022年のエネルギー価格高騰期には、DOWは製品価格上昇により高収益を実現しましたが、2023-2024年の価格正常化局面では収益性が大幅に低下しました。このような原材料価格サイクルは配当政策にも影響し、価格高騰期には増配余地が生まれる一方、価格下落期には配当維持圧力が高まります。投資家は原材料価格動向と同社の価格転嫁能力を注視する必要があります。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】


Posted by 南 一矢