PM:フィリップモリスの配当推移
フィリップモリスインターナショナル(Philip Morris International Inc.)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。
権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。
配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート
年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等
年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。
年 | 配当 | 平均株価 | 年EPS | |||
---|---|---|---|---|---|---|
平均利回り | 成長率 | 配当性向 | 年計 | |||
2024 | 3.23% | 5.0% | 119% | 5.40 | 167.0 | 4.52 |
2023 | 5.36% | 2% | 102% | 5.14 | 95.9 | 5.02 |
2022 | 5.15% | 3% | 87% | 5.04 | 97.9 | 5.81 |
2021 | 5.22% | 3% | 84% | 4.9 | 93.8 | 5.83 |
2020 | 6.12% | 3% | 92% | 4.74 | 77.5 | 5.16 |
2019 | 5.69% | 3% | 100% | 4.62 | 81.2 | 4.61 |
2018 | 5.07% | 6% | 88% | 4.49 | 88.5 | 5.08 |
2017 | 3.82% | 2% | 109% | 4.22 | 110.5 | 3.88 |
2016 | 4.29% | 2% | 92% | 4.12 | 96.1 | 4.48 |
2015 | 4.86% | 4% | 91% | 4.04 | 83.2 | 4.42 |
2014 | 4.60% | 8% | 82% | 3.88 | 84.4 | 4.76 |
2013 | 4.00% | 9% | 68% | 3.58 | 89.4 | 5.26 |
2012 | 3.79% | 16% | 63% | 3.28 | 86.5 | 5.17 |
2011 | 4.20% | 16% | 58% | 2.82 | 67.1 | 4.85 |
2010 | 4.69% | 9% | 62% | 2.44 | 52 | 3.92 |
2009 | 5.14% | 45% | 69% | 2.24 | 43.6 | 3.24 |
2008 | 3.16% | — | 47% | 1.54 | 48.7 | 3.31 |
2024年の配当実績と2025年見通し
- 2024年配当総額:年間$5.40(前年比5.0%増)
- 最新四半期配当:$1.35(2025年第1四半期)
- 連続増配:17年連続(2008年上場以来無傷の増配記録)
- 配当利回り:約3.23%(現在の株価水準)
- 株価パフォーマンス:2024年平均$167で過去最高水準
2024年の重要な変化
- カナダ事業減損:$23億の非現金減損により報告EPSは$4.52に低下
- 調整後EPS:$6.57で前年比9.3%成長
- スモークフリー事業:売上高の40%を占め、成長を牽引
- ZYN米国展開:FDA承認獲得し、51%の成長を達成
【出典】
安定した配当実績の評価
Philip Morris International(PM)の配当実績は、たばこ産業が直面する規制環境の厳格化や喫煙率の継続的な低下にもかかわらず、驚くべき安定性と成長を示しています。2008年のAltria Group(MO)からの分社化以来、一度も配当を削減することなく、17年連続の増配を続けてきました。1株当たり配当は2008年の$1.54から2024年には$5.40へと17年間で約251%増加し、年平均成長率で約8.4%の堅実な成長を達成しています。この一貫した増配実績は、同社のブランド力、価格設定力、そして株主還元を重視する明確な経営方針を反映しています。
配当成長率の推移
PMの配当成長率は、成熟企業として典型的なパターンを示しています:
- 2009年:例外的に高い成長率(45%)を記録(独立企業としての配当政策確立期)
- 2010〜2013年:高い成長率を維持(9〜16%)
- 2014〜2016年:成長率の緩やかな鈍化(2〜8%)
- 2017〜2023年:安定した成長率の維持(2〜6%)
- 2024年:回復基調(5.0%)
このパターンは、企業のライフサイクルと戦略的優先順位の変化を反映しています。初期の高い成長率から、より持続可能で予測可能な配当増加ペースへの移行は、成熟市場における事業安定化と次世代製品への戦略的投資のバランスを示しています。
配当性向の分析と持続可能性
2024年の配当性向:報告ベースEPSは$4.52に低下したため、配当性向は119%となりました。これは主にカナダ事業関連の$23億非現金減損($1.49/株)の影響です。調整後EPSベースでは約82%と健全な水準を維持しています。
配当性向(「1株配当 ÷ EPS」)は、PMの配当政策を評価する上で重要な指標です。その推移を見ると:
- 2008〜2012年:47〜69%の範囲で安定的に推移
- 2013〜2016年:68〜92%と徐々に上昇
- 2017年以降:変動を伴いながらも上昇傾向、近年は100%前後で推移
- 2024年:特別要因により119%に上昇
財務パフォーマンスと成長見通し
2024年業績ハイライト
- 売上高:$37.9B(前年比+7.7%、有機ベース+9.8%)
- 調整後EPS:$6.57(前年比+9.3%、為替中立ベース+15.6%)
- 報告EPS:$4.52(カナダ事業減損$1.49影響)
- 営業CF:約$110億(目標通り)
- スモークフリー事業:売上高の40%、約$150億を占める
- IQOS利用者:3,860万人(前年末比530万人増)
2025年ガイダンス
2025年業績見通し:
- 調整後EPS:$6.80〜$6.95(前年比+7.2%〜+9.1%、為替中立ベース+10.5%〜+12.5%)
- 売上高成長:有機ベースで6%〜8%
- 営業利益成長:有機ベースで10.5%〜12.5%
- 営業CF:約$110億を維持
- 実効税率:22.5%〜23.5%
- 無形資産償却:$0.49/株
主要財務指標の推移(17年間)
年度 | 売上高 (B$) |
営業CF (B$) |
CFマージン (%) |
純利益 (B$) |
調整後EPS ($) |
配当支払 (B$) |
---|---|---|---|---|---|---|
2024 | 37.9 | 11.0 | 29 | 7.1 | 6.57 | 8.4 |
2023 | 35.2 | 9.2 | 26 | 7.8 | 6.01 | 8.0 |
2022 | 31.8 | 10.8 | 34 | 9.0 | 5.96 | 7.8 |
2021 | 31.4 | 12.0 | 38 | 9.1 | 5.69 | 7.6 |
2020 | 28.7 | 9.8 | 34 | 8.1 | 5.16 | 7.4 |
2019 | 29.8 | 10.1 | 34 | 7.2 | 4.61 | 7.2 |
2018 | 29.6 | 9.5 | 32 | 7.9 | 5.08 | 7.0 |
2017 | 28.7 | 8.9 | 31 | 6.0 | 3.88 | 6.6 |
2016 | 26.7 | 8.1 | 30 | 7.0 | 4.48 | 6.4 |
2015 | 26.8 | 7.9 | 29 | 6.9 | 4.42 | 6.3 |
2014 | 29.8 | 7.7 | 26 | 7.5 | 4.76 | 6.1 |
2013 | 31.2 | 10.1 | 32 | 8.6 | 5.26 | 5.6 |
2012 | 31.4 | 9.4 | 30 | 8.8 | 5.17 | 5.3 |
2011 | 31.1 | 10.5 | 34 | 8.6 | 4.85 | 5.0 |
2010 | 27.2 | 9.4 | 35 | 7.3 | 3.92 | 4.5 |
2009 | 25.0 | 7.9 | 31 | 6.3 | 3.24 | 4.4 |
2008 | 25.7 | 7.9 | 31 | 6.9 | 3.31 | 3.2 |
長期キャッシュフローと配当カバー率分析
年度 | 営業CF (B$) |
CF成長率 (%) |
配当支払 (B$) |
配当カバー率 (倍) |
株主還元率 (%) |
FCF (B$) |
---|---|---|---|---|---|---|
2024 | 11.0 | 19 | 8.4 | 1.31 | 86 | 9.5 |
2023 | 9.2 | -15 | 8.0 | 1.15 | 61 | 5.6 |
2022 | 10.8 | -10 | 7.8 | 1.38 | -35 | -4.9 |
2021 | 12.0 | 22 | 7.6 | 1.58 | 158 | 9.6 |
2020 | 9.8 | -3 | 7.4 | 1.32 | 87 | 8.6 |
2019 | 10.1 | 6 | 7.2 | 1.40 | 80 | 8.3 |
2018 | 9.5 | 6 | 7.0 | 1.36 | 102 | 8.5 |
2017 | 8.9 | 10 | 6.6 | 1.35 | 31 | 5.8 |
2016 | 8.1 | 3 | 6.4 | 1.27 | 67 | 7.3 |
2015 | 7.9 | 2 | 6.3 | 1.25 | 60 | 7.2 |
2014 | 7.7 | -24 | 6.1 | 1.26 | 89 | 6.7 |
2013 | 10.1 | 8 | 5.6 | 1.80 | 81 | 7.4 |
2012 | 9.4 | -11 | 5.3 | 1.77 | 86 | 8.4 |
2011 | 10.5 | 12 | 5.0 | 2.10 | 79 | 9.5 |
2010 | 9.4 | 20 | 4.5 | 2.09 | 91 | 8.7 |
2009 | 7.9 | -1 | 4.4 | 1.80 | 88 | 6.8 |
2008 | 7.9 | 43 | 3.2 | 2.47 | 53 | 4.7 |
配当カバー率の安定性分析
- 17年平均カバー率:1.54倍(配当は営業CFの65%をカバー)
- 危険水準(1.2倍未満):過去17年間で一度もなし
- 最高水準:2008年(2.47倍)、2010-2011年(2.09-2.10倍)
- 2024年回復:1.31倍と健全な水準に改善
- フリーキャッシュフロー:2024年は$95億と潤沢
収益性と効率性の分析
2024年の力強い成長:売上高は$37.9B(+7.7%)、営業CFは$110億(+19%)と過去最高水準を記録しました。特にスモークフリー事業が売上高の40%を占め、成長を牽引しています。
PMの財務データからは、グローバルたばこ企業としての強固なビジネスモデルと高い収益性が見て取れます:
- 売上高は2008年の$25.7Bから2024年には$37.9Bへと約47%増加
- 営業CFマージンは26〜38%の極めて高い水準を一貫して維持
- 営業CFは2024年に過去最高の$110億を記録
- スモークフリー事業の急成長により、事業ポートフォリオが多様化
バランスシート分析と財務健全性
資本構成と負債水準の推移(17年間)
年度 | 総資産 (B$) |
総負債 (B$) |
株主資本 (B$) |
自己資本率 (%) |
純負債 (B$) |
D/EBITDA (倍) |
---|---|---|---|---|---|---|
2024 | 61.8 | 71.7 | -9.9 | -16 | 25.2 | 2.66 |
2023 | 65.3 | 74.8 | -9.4 | -14 | 28.5 | 2.89 |
2022 | 61.7 | 68.0 | -6.3 | -10 | 27.1 | 2.45 |
2021 | 41.3 | 49.5 | -8.2 | -20 | 22.8 | 1.85 |
2020 | 44.8 | 55.4 | -12.6 | -28 | 26.7 | 2.12 |
2019 | 42.9 | 52.5 | -11.6 | -27 | 24.1 | 1.98 |
2018 | 39.8 | 50.5 | -12.5 | -31 | 23.8 | 2.01 |
2017 | 43.0 | 53.2 | -12.1 | -28 | 24.5 | 2.18 |
2016 | 36.9 | 47.8 | -12.7 | -34 | 24.1 | 2.31 |
2015 | 34.0 | 45.4 | -13.2 | -39 | 26.6 | 2.87 |
2014 | 35.2 | 46.4 | -12.6 | -36 | 28.9 | 3.12 |
2013 | 38.2 | 44.4 | -7.8 | -20 | 25.1 | 2.68 |
2012 | 37.7 | 39.5 | -3.5 | -9 | 21.8 | 2.35 |
2011 | 35.5 | 33.7 | 0.2 | 1 | 15.2 | 1.54 |
2010 | 35.1 | 29.9 | 3.5 | 10 | 12.8 | 1.28 |
2009 | 34.6 | 28.4 | 5.7 | 17 | 13.5 | 1.45 |
2008 | 33.0 | 25.1 | 7.5 | 23 | 12.2 | 1.35 |
バランスシート構造の特徴と注意点
- マイナス株主資本(2012年以降):積極的な株主還元によるもので、レバレッジド・リキャピタリゼーション戦略
- 債務水準の管理:純負債/EBITDA比率は2.66倍で、目標の2.0倍付近への改善継続中
- Swedish Match買収:2022年の$160億買収により総資産と負債が大幅増加
- 流動性の確保:強固な営業CFにより十分な資金調達力を維持
- 信用格付け:投資適格級を維持
スモークフリー事業の成長戦略
2024年のスモークフリー事業ハイライト
- 売上構成比:総売上高の40%(約$150億)
- IQOS利用者:3,860万人(前年末比530万人増)
- HTU出荷量:1,397億本(+11.6%)
- ZYN米国成長:出荷量5.81億缶(+51%)
- FDA承認:ZYN製品の米国販売が正式承認
- 市場展開:95か国でスモークフリー製品を展開
地域別事業概況(2024年)
地域 | 売上高 (B$) |
成長率 (%) |
営業利益 (B$) |
利益率 (%) |
主要動向 |
---|---|---|---|---|---|
欧州 | 15.4 | +7.9 | 7.1 | 46.2 | IQOS市場シェア拡大 |
SSEA・CIS・MEA | 11.3 | +5.9 | 3.5 | 31.0 | 新興市場での成長 |
東アジア・豪州 | 6.4 | +3.1 | 2.9 | 45.1 | 日本でのIQOS好調 |
米州 | 4.5 | +19.1 | 1.3 | 29.5 | ZYN急成長 |
まとめ:長期配当投資家にとってのPMとは?
Philip Morris International(PM)は、厳しい規制環境と喫煙率の継続的な低下という構造的な課題に直面しながらも、強力なブランドポートフォリオ、グローバルな事業展開、そして次世代製品への戦略的シフトにより、安定した収益と堅調なキャッシュフローを生み出し続けています。
同社の強みは以下の点にあります:
- 2008年の上場以来17年間連続増配を達成、無傷の配当記録
- 極めて高い営業キャッシュフローマージン(常に26%以上、2024年29%)
- マールボロなどの強力なグローバルブランドと価格設定力
- IQOSを中心とした次世代製品への先行投資と市場リーダーシップ
- スモークフリー事業が売上高の40%を占める事業変革の成功
- ZYNの米国市場でのFDA承認と急成長(+51%)
- グローバルな事業展開による地域リスクの分散
- Swedish Match買収による無煙たばこ事業の強化
一方で、注意すべき点としては:
- 喫煙率の継続的な低下という構造的な逆風
- マイナスの株主資本と高い負債水準(純負債/EBITDA 2.66倍)
- 規制リスク:たばこ製品に対する規制強化や増税の可能性
- 訴訟リスク:カナダ事業で$23億の減損を計上
- ESG投資の台頭による投資家基盤の制約
- 次世代製品市場での競争激化
- 為替変動リスク:収益の大部分が米ドル以外の通貨で発生
投資家へのポイント:PMへの投資は、「高品質配当・事業変革」を求める投資家にとって魅力的な選択肢と言えます。同社は成熟産業において、次世代製品への戦略的シフトを通じて新たな成長軌道を描きながら、一貫した株主還元を実現するという明確な戦略を持っています。
2024年の転換点:スモークフリー事業が売上高の40%を占め、3,860万人の利用者を獲得したことは、PMの事業変革が成功段階に入ったことを示しています。特にZYNの米国でのFDA承認は、今後の成長加速の重要な転換点となるでしょう。
配当投資家としては、PMの17年連続増配実績と強力なキャッシュフロー生成能力(2024年$110億)が大きな安心感を与えます。カナダ事業の減損により一時的に配当性向が上昇していますが、調整後ベースでは約82%と健全な水準を維持しており、長期的な配当の持続可能性は高いと考えられます。
よくある質問
PMの配当は、強力かつ安定したキャッシュフロー生成能力に支えられており、短中期的には非常に安全と考えられます。同社は2008年の上場以来17年連続で増配を続けており、一度も配当を削減していません。2024年の営業キャッシュフローは過去最高の$110億を記録し、配当カバー率は1.31倍と健全な水準です。2024年にカナダ事業の減損により報告EPSが低下しましたが、これは非現金の一時的要因であり、調整後EPSベースの配当性向は約82%と適正範囲にあります。スモークフリー事業の成長により事業ポートフォリオも多様化しており、現在のビジネスモデルが続く限り配当の安全性は高いでしょう。
PMの株主資本がマイナスになっているのは、主に積極的な株主還元(配当と自社株買い)の結果であり、「レバレッジド・リキャピタリゼーション」戦略によるものです。これは会計上の利益を超える金額を株主に分配してきたことを示しています。PMの強力なブランド価値と価格設定力に基づく安定したキャッシュフロー生成能力(2024年$110億)が、この攻撃的な資本構造を支えています。実際、2012年に株主資本がマイナスになって以降も13年間にわたり配当は継続的に増加しています。ただし、純負債/EBITDA比率は2.66倍と高めであり、同社も2026年末までに2.0倍付近への改善を目標としています。現時点では差し迫った懸念材料とはなりませんが、長期的なリスク要因として注視すべきでしょう。